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天使か悪魔か

リアルババアあしゅのいらん事言いブログです。 昔の記事は http://maho.lomo.jp/nashural/ に。

ジャンル・やかた 1

この記事は、高熱で寝込んでいる時に見た夢。
細切れの展開で、途中までしか見ていないけど
とてもよく出来た夢だったので、小説にしてみた。

と言っても、小説など読んでたのはガキの頃だけなんで
小説の体を成していないかも知れないのは、ほんとすいません。



アッシュは門の前でとまどっていた。
目の前に広がっているのは、腰丈ぐらいに伸びた枯れ草の原。
その彼方にポツンと建っているのは
そっけない古いホテルのような外観の家だ。

まさかこんなに広大な土地と家だったとは。
家って言うか、・・・何だろ、建築物?
フランスかどっかに、こんな城があった気がする。
城という名に惹かれて観光に行ったら肩透かしー、みたいな?

曇った空と冷たい木枯らし、枯れ野原の向こうに古い洋館
心も体も冷え冷えになるような寂しさを感じるが
とりあえず、門の錠前を開けようと鍵穴に鍵を差し込む。

ところが錠は図体ばかりデカくて、大味なピンっちゅうの?
それが中々鍵に引っ掛かってくれず、どんどんイライラしてきて
鎖に繋がれた錠をガスガス揺らしながら
しまいにゃガンガン門に叩き付けて、ゴリ押しでやっと開ける。

その後、門にグルグル巻きにされた太いチェーンと格闘すると
手が赤錆でザラザラに染まってしまった。
破傷風菌がウジャウジャいそうで気色悪い。
早く手を洗いたい。

門は、キエエエエエエ と、ありえない音を発して開いた。


ところで、敷地内に入って気が付いたのだが
門の前からは、石畳の道が建物の方に続いていて
その道以外の場所は、草ボウボウなのだが
その石畳から門の左側に獣道が出来ていて
塀側の終点に木製のドアがあった。
あれ? 向こう側に別にドアがあったんだ・・・
と、ドアの取っ手をひねると、簡単に開く。

何じゃ、こりゃあ!
こんなラクショーなドアがあったんかよ。
じゃ、今度からこっちから出入りするよ!
怒りつつも、律儀に門に鎖を巻き直し、錠前を掛けた。
こういう几帳面さが、アッシュの長所でもあり短所でもある。


だけど、この獣道はたまに見回りに来る人の形跡じゃないよな。
毎日誰かが通っているような?
そんな話聞いてない、やだ何恐いー!
と、棒読みで考え、薄笑いを浮かべた正にその時、横から声がした。

「ちょっと、あんた」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ」
悲鳴を上げて尻もちをついた時に、中年女性とその手元に鎌が見えた。

ホラー! ホラーじゃん、これホラー!!!
だよね、あの不気味門で気付くべきだったんだ
設定、全部丸ごとホラーの始まりじゃん!
古びた洋館で嬉々として殺人を繰り返す鎌ババア
異国の寒空の下、凍えゆく心と体に危機が迫る!
湯煙旅情の果てに行き遅れナイスバディが見たものとは?

脳内で叫んでいるつもりが、ホラーホラー呟いてたようで
「・・・頭の弱い子とは聞いてなかったよ。」
こりゃ参ったねえ、とババアは鎌で草を刈り始めた。


・・・・・・・・・・
あっ、草刈り? だよねえ、草、刈らないとね、草刈りね。
と、自分の大袈裟な反応を恥じつつ、それをなかった事にしようと
サッと立ち上がり、いかにも落ち着いてますよ、という声で言った。

「失礼いたしましたー。 私はアッシュと申しましてー。」
「あんた、妹だろ? グレーから聞いているよ。」
「兄を知っているんですかー?」
「うん、まあね。」
「で、兄は何故死んだんですかー?
 てか、何故ここに住んでたんですかー?」
「ま、案内がてら教えるよ。」

鎌ババアが着いて来るよう顎で促し、スタスタ歩き出したので
手から落とした荷物を慌てて掴んで、アッシュは後を追った。


鎌ババアの後ろを歩きつつ、全身をなめまわすように観察した。
明るい茶色の無造作ショートヘア
ノーメイクだけど、作りは悪くなかったであろう顔
薄手のカーディガンと、ブラウスにロングフレアスカートで
全身ボンヤリした微妙なグラデーションのベージュでまとめて
靴はバックスキン風味の編み靴って言うんかな。
体型は巨乳、巨腹、巨尻、身長は150cm前後?

こういうタイプが一番年齢不詳なんだよなあ
でもスタンダードな田舎英国風マザーだよね、あるあるあるある。
と、ひとり納得していたら、前から女性が歩いてきた。

「おはよう」
「はい、いってらっしゃい」
鎌ババアとそれだけ交わすと、女性はアッシュに目もくれず
あごを上げて、ピンヒールをカツカツと鳴らせて木戸から出て行った。

え? え? 何で? 何で人が出てくんの?
ここ住人がいるわけ? 何で? 兄はもういないのに???
アッシュの動揺など、知ったこっちゃない、と先に進む鎌ババアに
たまらず、声を掛ける。

「すみません、鎌・・・いや、あのすみません、あなたのお名前はー?」
「あたしゃ、ローズ。 さっきの女はリリー。 香水臭い女だろ?」
確かに女性が通った後には、香りの帯が出来ている。
「いや、そういう事じゃなくて、ここ住人がまだいるんですかー?」
「だから道々話すから。」
「はあ・・・。」


何をもったいぶってるんだろう?
そもそも、この女性は何者なんだ?
てか、門から建物まで遠すぎ! 送迎バスを出す距離だろ、こりゃあ。
荷物が肩にくい込み、子泣きジジイのようにどんどん重く感じ始め
イライラしてきたと同時に、何かどんどん臭くなってきた。

草刈ったら臭かった、フッ・・・じゃなくて、この臭いは何なんだろう?
何の臭いか言われても、よくわからん、とにかく臭いっぽい
としか表現できないんだけど、あえて言えば街中のドブ川のような?

初対面で臭いの質問なんかして良いもんだろうか?
と、礼儀作法について迷いに迷いまくっていたら、玄関ドアに着いた。
デカい両開きの木製の装飾ドアである。


うわ・・・、こんなデカい建物だとは思わなかった。
相続税、いくらになるんだろ?
こりゃあ相続放棄しかないんじゃないのか?

アッシュが息切れでゼイゼイ言いながら、見上げて恐れたそのドアを
鎌、いや、ローズが重そうに押し開けると
中から猛烈な臭気があふれ出た。

こりゃ臭いわけだわ!

アッシュは一歩入って、全理解した。
本来なら広くて立派だったであろう玄関ホールは
四方八方隅々に積み上げられた荷物ゴミその他で丸い空間になっていた。
何なの? このゴミの山、ここ、ゴミ屋敷なのー?

アッシュは、ザツな言動のせいでよく誤解されるが
神経質で真面目で、少々潔癖症な面もある。
それがこんな場所に、足を踏み入れてしまうなど
自分でも信じられずにいたけど、ここは兄が残した物件で
アッシュは相続をどうするかを決めに来たのである。
右から左に売り払おうにも、とにかく見ておかないと話にならない。


しっかし、この玄関ホールだけで
私の住んでる賃貸マンションが丸ごと入るんじゃないんか?
田舎とは言え、広い上に何か豪勢だよな。

ボーッと天井のシャンデリアを見上げて妬んでいたら
いきなりローズに突き飛ばされた。

ゴミ山に横倒しになり、もちろん痛かった。
予想をしていなかったので、首も座ってなく
グキッとかやって、ちょっとムチウチ気味になった。

しかし文句を言う事すら出来なかった。
振り向いたアッシュが目にしたものは
首の皮膚が斜めに切られて、血を噴き出して倒れる男の姿だったからだ。

倒れた男は白目を剥き、体全体を大きくけいれんさせている。
アッシュのジーンズに、その血がパスパス掛かった。


続く。


関連記事: ジャンル・やかた 2  09.6.18

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

ジャンル・やかた 2

いきなりの “コレ” で、どう説明しようかねえ。

振り向いたローズの目に映ったのは
体育座りをして、うつむくアッシュだった。
驚くローズにアッシュがつぶやく。
「自分の殻に閉じこもって良いですかあー?」


「えっと、あんたの反応、よくわかんないんだけど・・・。」
どう扱っていいか困り果てたローズに、アッシュが畳み掛ける。

「だって私、ホラーファンですもんー。
 何かもうよくわかりますもんー。
 ありがちですもんー、先、読めますもんー。
 何これ?何これ?言ってる間に、次々に周りが殺されていって
 運良くラスボスを倒せても、最後の最後に大どんでん返しになって
 『キャアアア』 とかなって、エンドロールでしょうよー。」

言いながら、自分がとても不憫に思えてきて
涙が溢れてくるのみならず、鼻水まで滝落ちし始め
“涙ながらに訴える” にしては、同情しかねる汚い事になりつつも
気持ちがどんどんエスカレートしていき、しゃくり上げながら続けた。

「私が主人公って限らないじゃないですかー
 脇役だったら、シャワーを浴びただけで殺されるじゃないですかー
 風呂にも入れず、わけもわからんと、ただ殺されるなんて
 リアルであって良いんですかあー?」

もう、ここでローズの方こそ、意味がわからなくなっていたが
エキサイトしたアッシュは構わず叫び続ける。
「大体、あなただって味方だとは限らないじゃないですかあー?
 安心させといて、ラストで鬼のような顔で振り向く、とか
 すげー危なくないですかー?」

こういう時の女性は、自分でも何を言ってるのかわかっていない。
アッシュもそのせいで、後のフォローが大変な人生なのだが
今回はさすがに自分を全解放しても、しょうがない事態ではある。


ローズがアッシュを、異質なものでも見るような目をして見つめていて
アッシュもそれを感じ取っていた時に、声がした。

「おいおい、ローズ、大変そうだな。
 今回はキチガイのお守りかい。」

その言葉が耳に入り、脳がその意味を理解できた時
アッシュはこめかみあたりで、ピチッと音が鳴った気がした。

「ああああああああああああああああああああああーーーーーーーーー」
叫びながら、アッシュは声の元に突進して行った。
いつ手にしたかわからない棒状のものを相手に振り下ろす。

手の平と肘に、衝撃とともに鈍い痛みが走ったが
叫び声を上げながら、何度も何度も棒を振り下ろした。
「あーっ! あーっ! あーっ! あーっ!」

それは正に、人が狂気の底に陥った瞬間で
見ている人には身震いするほどのおぞましさがあった。


だがそんな状態になりながらも、自力で我に返る事が出来るアッシュは
ある意味、冷静さを失わない種類の人間である。

しかし、目の前に横たわる小柄な男性の血まみれの顔面を見て
再びパニックを起こした。
「やってもたーーー! やってもたーーー!」

今まで交通違反も犯さず、真面目に生きてきて
むしろ善人系統だったのに、いきなり殺人者に転落かよ!

抱えた頭を前後に激しく振るアッシュの姿は
どっかの部族の儀式の踊りのように見えて
ローズは言葉すら出ないほど、呆気に取られた。


が、アッシュの脳内では、そんな事はお構いなしに
グルグルと計算が働いていた。

いや、これは突発的な危機回避であって
凶器もそこらへんにあった物だし、殺意はなかったと
凶器、凶器、あっ、何かあるはず!
アッシュは倒れている男を見る。
手には、釘が何本も貫かれた角材が握られている。

これ! これは死ぬよね! 計画的な殺意ありとかだよね!
正当防衛だよね! でも殺しちゃったら過剰防衛になるわけ?
でもこの状況じゃしょうがないよね! 茫然自失だよね!
あっ、あっ、あれ! あれ! あれだよね!

ガッと立ち上がって、ローズの方をグルッと見て叫ぶ。
「心神喪失だよね!!!」

よしっ、これで過失致死可能!
前科もないし、もしかしたら執行猶予が付くかも知れんし
最高で責任能力なし無罪、もしくは精神の治療か何かで済むかも!!!


ローズの方が、遥かに動揺していた。
通常とはかけ離れた言動をするこいつに、どう対応すれば良いのか?
今すぐにでも白旗を揚げたかったが、それは出来ない決まりで
何より失態が続けば評価が落ち、ここで生きにくくなる。

「と、とにかく、住居フロアに行くよ、あそこなら安全だし。
 とりあえず、ここは人目が多すぎるからマズい。」
「はあ? 人目ーーーーーーー? 何だよそれ
 私には人の視線なんてわからないんだよっ!」
「視線じゃなくて、実際に見てるから!」

アッシュが吹き抜け上部を見回すと
2階や3階のフロアの手摺りから、男女合わせて20人ぐらいが
こっちを見下ろしている姿があった。
「ああっ! マズい、目撃者があんなにーーーーーーっっっ!」
「だから、さっさと行くよ!」


アッシュの腕を掴んで、ズンズン歩くローズにアッシュが叫ぶ。
「死体はー? 死体遺棄まで付いたら困るーーーーーっ!」
「向こうの死体は片付け屋が来るし
 あんたのやった方は誰かが手当てするから!」
吐き捨てるようなローズの答に、アッシュが腕を振りほどき
倒れた男の元に駆け寄って、手の脈を取った。
が、どこが脈かよくわからないので、口に手をあてたら呼吸をしている。

「やったー! ラッキー! 生きてる! 生きてるよ!
 過失傷害ゲーーーーーーット!!!」
いいから! と、ローズが再びアッシュの腕を掴む。


見物していた人々の反応は様々だった。
「ヘンなヤツが来ちゃったねえ。」
「特例だしな。 にしては異質だがな。」
「ありゃあ大変だー、ローズも苦労続きで気の毒に。」
「ローズ、良い気味さ。」
「なあに、すぐ終わる。」


小走りに急ぐローズに手を引かれ、階段を上り廊下を行く内に
過失傷害に浮かれた頭もだんだん冷め、周囲がよく見えてきた。

長い廊下は、各部屋のドア部分と窓、それに中央に出来た獣道以外は
まるで雪国の道路の雪かきのように、ゴミが脇に積み上げられている。
家具や調度品、布、箱、紙、何だろう、金属の部品のようなもの。

玄関ホールも、階段もそうだった。 この館全部がこうなのか。
これだけの荷物を、一体どこから集めてきたのか。
恐らく臭いも、ものすごいはずだが
パニックが続いてる時に鼻が慣れてしまったのか、よくわからない。


と言うか、私は一体何をしているんだろう?
そう気付いた途端、アッシュの心は急速冷凍された。

「あの、鎌・・・ローズさん、今どういう状況なんでしょうー?」
「? 今、安全な場所に急いでいる最中さ。」
「私は何も教えてもらえず犬死にですかー?」
「犬死に・・・、あんた結構、把握できてるんだね。
 それだけでも随分安心できるよ。
 心配しなくても、あたしの知っている事は教えるから
 とにかく今は居住区域に急ごう。
 あそこは安全だから襲われる事はない。」

ローズの言葉の端々から、ここでは規律が存在するんだ
と、アッシュにはわかった。
無秩序ほど恐いものはない、という事をアッシュが知っているのは
ひとえにホラー好きだからである。

奥が深いようで浅いアッシュ、どうなる?


続く。


関連記事: ジャンル・やかた 1  09.6.15
      ジャンル・やかた 3  09.6.25

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

ジャンル・やかた 3

「あんたはここで寝泊りしな。 グレーもここにいたんだよ。」
ローズは天井のライトを点けた。
「こっちがバストイレ、お茶はこのコンロで。 飯は食堂で。」
 
部屋はイメージ的には、こげ茶色の書斎、って感じ。
天井まで5mぐらいの高さがあり
その中ほどぐらいまで、荷物が積み上げられている。
机、椅子、テーブル、ソファー、ベッド、タンス大小4つ
と、一通りの家具は揃っていた。
机の上にはパソコンも置かれている。

リュックとボストンバッグに、ショルダーバッグを
ベッドの上に置いた時に、ふと気付いた。
よくこの荷物を持っていたな、と。
忘れてきても無理ない状況だったのに
やっぱ私ってしっかりしてるよな、とフフッと笑った。

それをしっかり目撃したローズは、ゾッとした。
アッシュの言葉や仕草、反応、そのことごとくが
ローズには理解できなかったからである。
最初に見た時には、いかにも頭の弱そうなお嬢ちゃんだと感じたのに
外国人だからだろうか? と、ローズは首をひねった。


ソファーにどっかりと腰を下ろしたアッシュが
いかにも知的そうなそぶりで訊ねる。
「で、鎌・・・ローズさん
 私はどういう立場に置かれているんでしょうー?」

「あんた、さっきっから、鎌って言ってるよね? 鎌って何なの?」
「・・・鎌・・・」
アッシュはローズの右手に握られた鎌を指差した。

「あ? ああ、これは草刈り用だよ、失礼だね!
 私の武器はこっちだよ。」
ローズはスカートの背にはさんであった大鋏を取り出した。
アッシュは果てしなく引き潮に乗った。

「クロックタワーのハサミ男ー?
 もしかしてこっちが悪役とか言う設定なんですかー?」
「あんたの言う事がほとんどわかんないんだけど?」
イラ立つローズに、アッシュは謝った。
「今のはゲームの話なんですー。
 すいません、いつもはこうじゃないんですけど
 何かもう、パニくっちゃってー。」

「まあ、それなら無理もないよ。
 いいさ、ちょっとぐらいわけのわからない言動をしたって。
 泣き喚かれ続けられるより、よっぽどマシだしね。」
ローズはちょっと安心した。
ホラーだのゲームだの、こいつは多分フリークというやつなんだろう。


「あんたの訊きたい事はわかる。
 あんたは兄から、この館の相続権を譲り受けようとしてるんだ。
 それを受けるには、この館のどっかの部屋に行って
 館の主に会わなきゃいけない。」
「アドベンチャーだったんですかー・・・。
 さっきの通り魔は何なんですかー?」
「この館に何人の人がいるのか、正確にはわからない。
 でも、いるのは、あんたにとって3種類。
 敵、味方、どっちでもないヤツ。
 さっきのは通り魔じゃなくて、敵。 はっきり目的を持った敵。
 あんたを阻止しようとしてるのさ。」

ありがちだな、とアッシュは思った。
おそらく、ローズは自分の守護者なのであろう。
「で、あなたは味方なんですねー?」
「よくわかってるじゃないか。
 私は本来なら今回は違うはずだけど、あんたの兄さんに頼まれてね。
 しょうがないから、あんたを守って手助けしてやるよ。」

「でも、その “阻止” とか、“手助け” とか、殺人ですよねー?
 さっきひとり死んでましたよねー?
 それ、普通なら罰せられると思うんですがー。」
「あんた、ホラー好きならわかるだろ。 ここは治外法権なのさ。
 誰が死のうと、逮捕も裁判もないよ。」
鼻で笑うローズに、アッシュがつぶやいた。
「でも、罪悪感はー・・・?」

ローズはいきり立った。
「そういうセリフは、生きてここを出られた時にぬかすんだね!
 罪悪感がイヤなら、無抵抗で死ぬがいいさ。
 あんたが死ねば、私もこの役目から解放されるってもんだ。
 代わりに戦ってやろうと言ってる人間に対して
 何もしないあんたが何を責められるっていうんだよ
 そういうのを口先だけのキレイ事って言うんだよ
 私を怒らせたら困るのはあんただよ! わきまえな!!」

うわっ、自称世界の警察国家理論!
アッシュはそう思ったが、これ以上逆らうのは確かに得策ではない。
多分、クリアせずにこの館を出る事は出来ない。
何かもう、この上なく理不尽な巻き込まれ方をしているようだが
明らかに自分の道は、生き残るか死ぬかの2つしかないのだ。
・・・緊急避難・・・に、適用されるよね・・・?
プラス、脅迫、強要、この両方でいけるかも知れない。

生と死の狭間にあっても、法的処遇がまず頭に浮かぶ自分は
近代国家に暮らす真っ当な国民だな、と誇らしくもあって
再び知らず知らずに口元が緩んでいた。
やはり、あまりの出来事にちょっとどっかが壊れたのかも知れない。


こっちが激怒したっていうのに、よそを向いてニタニタ笑うアッシュに
嫌悪感を感じ、一刻も早くその場を立ち去りたくなったローズは言った。
「とにかく今日はもう、休むんだね。
 飯は食堂にあるよ、ここに居住区の見取り図が貼ってあるから。
 私は食堂か自分の部屋にいる。 用が出来たら声を掛けな。」

「あ、はい、どうもお世話になりましたー。」
アッシュは深々と頭を下げたが、それを見てローズは
益々、ヘンなヤツだとしか思えなかった。


ローズが部屋を出て行った後、アッシュはバッグを開けた。
携帯電話を取り出し電波を確かめたが、やはり圏外である。
ボストンバッグの方から充電器を出し、コンセントを探したら
机の下にタコ足気味なのが転がっていたので、それに差し込んだ。

次に、タンスの扉と引き出しを全部開ける。
こういのは下から下から、と、どこまでも遊び半分に見えるが
アッシュはアッシュなりに真面目なのだ。

タンスには、多数の男物の衣類が入っていた。
その中に、見覚えのあるセーターが入っていた。
これ、多分お兄ちゃんのだ・・・。

何かというと、ウンチクをたれるヤツで
このセーターの時は、確かアルパカの産地について何か言っていた。
聞き流したので、キレイさっぱり覚えていないのが
兄不孝をしたような気がして、ちょっと落ち込む。


その兄が死んだという知らせは、今でも信じられずにいた。
両親が他界してから、しばらく連絡が取れてはいたのだが
いつの間にか音信不通になり、気が付くと連絡不能になってしまい
元々地に足のついていないヤツだったし
どっかで浮浪者でもやっているんだろう、と諦めてはいたのに
まさか訃報が届くとは、そこまで想像はしていなかったのだ。

それが本当なら、私は天涯孤独になっちゃったんだよな・・・
ちょっとウルウルときそうになり、慌ててその感情を打ち消す。
いや、死ぬのを見ていないのなら、死んだと認識しなくて良い!
今も兄はどっかでフラフラやっている、と思おう。

今はとにかく、感情より現実!
少しでも多くの情報を集めなければ。
アッシュは、パソコンの電源を入れた。


続く。


関連記事: ジャンル・やかた 2  09.6.18
      ジャンル・やかた 4  09.7.2

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

ジャンル・やかた 4

こういうゲームには、必ずルールがある。
何故なら、ルールがないと人は共存できないからである。
そのルールを知る事が、攻略のコツなのだ。
 

この館には、どうやら大勢の人が住んでいるようである。
見物人の様子は、お互いが顔見知りっぽい雰囲気だった。

そしてローズが言ってた、居住区は非戦闘地帯みたいな決まりと
敵、味方、どっちでもないヤツ
この3種類の人間を、どうやって見分けるのか?

そして “今回も” ローズが味方、みたいな話。
と言う事は、他の挑戦者の時はローズが敵になってた、って事だ。
果たしてこの味方は、ゼルダのナビ妖精みたいな存在なのか
それともラスボスなのか、いや、ラスボスの前ふりボスの可能性もある。


てか、こういうのって、いくら考えてもわからなくねえ?
暗号だって解読表がないと無理だし
法則はデータが足りないと見つけられない。

アッシュは、ふーーー、と溜め息をつき、ベッドに倒れ込んだ。
・・・・・・・・・・・・。 DQの新作って8だっけ、9だっけ。
何も考えていないのと、雑多な考えが頭の中を巡るのとは
いつ何時も無心になれないアッシュにとっては同じ事だった。

あっっっっっっ!!!!! そんな事より!!!!!!
一番大事な事を忘れていた事を思い出した。
このゲームのクリア条件、“どっかの部屋にいる主に会う事”!!!

主はとりあえず置いといて、“どっか” だ、キモは。
館の地図とか、いやこの種類のゲームの場合、それはないだろうけど
攻略しようとしていたヤツが、マッピングしてねえわけがねえ
そこまでボンクラじゃねえよな、お兄ちゃん!


あー、でもアウトルックに2万通の未読メールを溜める (実話)
ようなヤツだし、パソコン系は私より無理かも
と思いつつも、先ほど立ち上げておいたパソコンに駆け寄ると
デスクトップ画面には、フォルダがいっぱい並んでいた。

あああああああああああああ、私こういうの大っっっ嫌いなんだよ!
引き出し開けっ放しと同じにしか思えねえんだよ!
てか、画面の光量高けえよ、老眼には眩しいんだよ!
てか、ウインドウズ Me--------っっっ?
何かむちゃくちゃ間の悪い空気読めてねえ持ち主ーーーーー!

何から何にまで文句を付けたくなるのは
この異常な事態へのストレスであろう。
デスクトップ上の数多いファイルのチェック
当然ながら、ファイル名が全部アルファベットで書かれていて
英語の苦手なアッシュにとっては、苦痛以外のなにものでもない。

map、これだよな? 地図はエムエーピーで良いんだよな?
ダブルクリックだよな? カチ・カチ、と。 あれ? カチ・・カチ?
連打はハードゲーマーのサガ。
カチカチカチカカカカカカカカカカカッ

すぐブチ切れて連打をする、こらえ性のないアッシュの目の前に
いきなりウィンドウが何個も開き、輪をかけてイラッとさせられる。


ファイルの中には、つたない地図が入っていた。
ペイント太線手描きですかい・・・。
この世には、自分以上にパソコンを使いこなせないヤツがいるようで
それは低レベルのインターネッター私! としては
ビリじゃないだけ目出度い事なんだろうが、この場合とても迷惑で。

そういや、スイッチの上に居住区の地図が貼ってあるって・・・。
ドア付近とパソコンを行ったり来たりして、わかったのは
この手描き地図は、居住区と似ているけどちょっと間取りが違う。
多分、この上か下か、そういやこの館は何階建てだったっけ?


窓を開けて上下を確認すると、地上6階建ての3階部分にいる事が判明。
窓の外は中庭らしく、噴水にベンチにテーズル椅子、花壇。
館の廊下と違って、ちゃんと手入れをされている。

この窓からじゃ、玄関ドアがどこにあるのかすらわからない。
門からの角度じゃわからなかったけど
この建物って、ものすごく巨大だったんだ・・・。
ここから見えるだけでも、立方体の建物が4個繋がってる。

向い側の建物の窓には人影が見える。
部屋の中にいる分には大丈夫だよね? と、慌てて窓を閉めた。


初心者がいきなり来て、真相が判明するなら苦労はねえよな。
にしても、何の収穫もなしか。
ああー、寿命のカウントダウンが始まってる気がするーーー。
あのバカ兄貴、まさか妹の殉死を企んでるんかよ?

ありえない恐怖の後に待っていたのは、怒り。
アッシュの動揺は、最後は怒りに着地する事が多い。
ソファーに大股開きで座り、足でテーブルの角をグリグリ突付く。

もしかして私、このまま怒って死ぬわけ?
うわあ、イヤなエンディング・・・、絶対、成仏できねーーーっ。
予想外だったなあ、こんな人生。
それも全部、あのクソ兄貴がzsdfgtyふkl

考えが同じところをグルグルと何度もループする。
脳内がグチャグチャになって、自分でも何を考えたいのか
わからなくなり、目の前の空間を見つめながら、また溜め息。

Xのどっちかにlが付いてたような気がするけど
DQの新作って、11だっけ?
・・・・・・
何か腹が減ったような気がする。

アッシュの思考パターンは、いつもこういう感じである。
皆そうだと、根拠なく信じていたのだが
最近になって、どうやら他の人は違うらしい、と
薄々感じてきているので、会話には気を遣っている。
「アッシュなりに」 と注釈付きではあるが。


食わんなら食わんでもいいけど、ここはやっぱ体力勝負だろうし。
アッシュは立ち上がって、見取り図のところに行った。

食堂は、あ、この部屋は左辺の建物にあるんだ
で、食堂はーーー、キッチン? ダイニング?
真上の棟、普通の部屋3個ブチ抜き、うん、ここっぽい。
隣がラウ・・・洗濯室?
へえ、ローズさんの部屋は、隣の隣なんだー。

いつ行っても飯ってあるんかいな?
だったらパライソーーーーーーー!
と、食堂に向かうアッシュ。
こんな時によく食欲が出るな。


続く。


関連記事: ジャンル・やかた 3  09.6.25
      ジャンル・やかた 5  09.7.15

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

ジャンル・やかた 5

食堂のドアは3ヵ所あり、全部開きっ放しだった。
中は10席ずつの長テ-ブルが、6個並んでいる。
覗き込むアッシュを、テーブルに付いていた数人が黙り込んで見る。
 
端が調理場のようで、しきりのカウンターの上には
惣菜やパンが大皿に山積みになっている。
バイキングなら食えそう、とアッシュは喜んだ。
TVで観るアメリカンハイスクールの食堂に憧れていたのだ。
ま、あいつら食い過ぎだけどな、アッシュはフフンと笑った。


驚いたのは周囲の人々である。
大体のいきさつは聞かされている。
肉親が相続途中で死に、何も知らされずにノコノコやってきて
暴力に巻き込まれたあげく泣き喚き、ブチ切れて暴れた女性が
直後に飯を食いにきて、その上何やら楽しそうなのだ。
その変わりようは、人間業とは思えない。

「すいませーん、これ、おいくらですかあー?」
厨房にいたウェイトレスがビクッとして答える。
「金はいらないよ。」
「あ、そうなんですかあー、ありがとうー、いただきまーす。」

アッシュがトレイに乗せたのは、ホワイトシチューの皿と
パン2切れ、フライドポテトだった。
窓を背にして座った途端、「あっ!」 と叫び
隣のテーブルにいたじいさんをビクッとさせる。

キョロキョロあたりを見回して、水道のところに行く。
どうやら手を洗いたかったようだ。
席に戻り、トレイに向かって拝んでから食べ始める。

実にナチュラルなその姿を、じいさんが固まったまま見つめていると
アッシュがグリンと振り向いて、訊ねた。
「ここ、いつでもご飯があるんですかあー?」
じいさんは思わぬ先制攻撃に、つい流されて答えた。
「う、うん、いつでも開いてて飯があるよ。」

「へえー、すんごいシステムですねー。
 部屋に持ち帰っちゃっても良いんですかねー?
 パンとか茶ぁとかー。」
「あ、ああ、うん、食器をちゃんと返さんといかんが。」
「洗って返すんですかー?」
「いや、洗わんで良い。」
「へえー、それ、嬉しすぎる設定ですよおー。
 ヒッキー天国みたいなー?
 兄がここに来た理由がいっちょわかったですねー。」
じいさんは、宇宙人と話しているような気分になった。

「あんたさ、これからどうすんの?」
向いのテーブルに座る若い女性が、大声で訊いてきた。
「えっと、ポテトとコーヒーを部屋に持ち帰ろうかとー。」
「バカ! 今じゃないよ、今後だよ今後!」
「さあー? よくわかりませーん。」
「ローズから話は聞いてないの?」
「聞いたかも知れませんけど、よくわからないんですー。」
「ああ、そうか、飲み込めてないからノンキなんだ。」
訊いた女性も他の人間も皆、失笑した。


あははー、と一緒になって笑いつつも、アッシュは思っていた。
ナメられてなんぼなんだよ、新参者はよー
ヘタに警戒されるより、まだバカにされてる方が安全ってもんさ。

やたら腹黒い考え方だが、これがアッシュのいつものやり方だった。
空気を読む能力に乏しいから、開き直ってハナから読まない。
周囲にも “読めない” と認識されていた方が、ラクに立ち回れる。
アッシュの間延びした喋り方も、ボケッとした表情も、ザツな性格も
そのやり方に合っていた。
お陰でアッシュは、どこに行っても
自分の立ち位置だけは、自分でコントロールする事が出来てきたのである。


その頃、ローズの部屋に客が訪れていた。
アッシュが飯を食ってる、と、わざわざ知らせに来たのである。
ローズは冷たく言い放った。
「放っときな。 あいつはバカだから。」

忠告者が首を振りつつ退室した後、ローズは何故か憂うつな気分になった。
グレーもそうだったけど、妹の方も何となく厄介そうだね・・・。
守護など引き受けなかった方が良かったかも。

でも、どうせここに来るヤツは皆おかしいし
既にグレーで、私の立場は良いとは言えない状況だし
・・・・・・罪悪感ねえ・・・・・・。
いや、手を汚さない誰もが言うそんな言葉を気にしてたら
生きては行けない。 ここでは。 そう、ここでは!

ローズは思い直したように立ち上がり、窓から食堂の方向を見た。


続く。


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ジャンル・やかた 6

アッシュはベッドの上で、ボーッとしていた。
夕べ、あまり眠れなかったのである。
 
いくら愚鈍なアッシュでも、ただでさえ不眠気味のとこに
人が首を斬られて倒れーの、ケイレンしーの
血ぃ噴き出しーの、その血が掛かりーの
自分が他人を滅多打ちしーのしたら
その音と感触が残り、グッスリ安眠など出来はしない。
殺される前に気が狂うかも・・・と、ひどくネガティブ思考になっていた。

こういう時は、とりあえず風呂である。
その後、コーヒーでも飲みに行こう。
能天気な顔で。


そう言えば・・・
バスタオルを干しながら思った。
ここは安全だと言うけれど、このゲームの期限はあるんだろうか?
食って寝て食って寝て、で良いなら
ここってほんと、引きこもりには天国じゃん。

あっ、ダメだーーー、ゲーム機がない!
あ、でも、ネットなら通販可能じゃん。
てか、ここの住人、収入どうしてんの?


「ん? 皆、仕事を持ってるよ。
 相続者は別だけど、一応ここには家賃っちゅうもんがあるんだよ。
 私は今回の守護者だから休暇を取ってるけど、本来は掃除担当なんだ。」
ローズがドアにもたれかかって答えた。

ほほお、じゃ、あなたが休んでいるから
この館はこんなに汚いんですねー?
と、茶化したら、ローズは怒り出した。

「掃除人は私だけじゃないよ!
 だけど、そこらのガラクタはしょうがないんだよ。
 何百年にも渡って、人が出入りする度に物が増えてさ。
 特別な指示もないから、皆、放っているのさ。」

じゃあ、ここの主は家賃収入でやっていってるんだ?
でも管理は行き届いてないよね。
・・・・・・管理?

アッシュはうつむいたまま、目だけを動かした。
あった、カメラ。
廊下にはあるけど、部屋には?

「すいませんー、ローズさん、部屋を覗いて良いですかー?」
「ん? ああ、構わないよ、入りな。」
ローズの部屋は、キレイに片付いていた。
窓にはレースの白いカーテン、テーブルの上には毛糸のカゴ
ソファーは、赤いギンガムチェックのカバーが掛けられ
クッションは色違いの黄色いチェックである。
メ・・・メルヘン!!!

この鎌ババアなら、頭蓋骨にロウソクを立てても不思議じゃないのに!
と、心の底から驚愕しているアッシュの横で
「どうだい、可愛い部屋だろ?」
と、鎌ババアが大威張りで鼻を鳴らした。

「はいー、すごいキレイですねえー。」
と、棒読みで答えつつ、天井の四隅を見るがカメラはない。


「か・・・ローズさん、廊下に監視カメラがありますよねー?
 部屋にはないんですかー?」
「あんた、今 “か” って言ったろ?」
「ほんと、すいませんー、もう言いませんー。 ほんと失礼しましたー。」
上体を90度に下げるアッシュに、ローズは困惑した。
「まあ、良いけど、カメラが何だって?
 そんなの個人の部屋にあるわけないじゃないか。」

「じゃ、廊下のは監視用ですよねー? 誰が見ているんですかー?」
「さあ、聞いた事ないねえ。」
「じゃ、もうひとつー、兄はどのぐらいの期間、ここにいましたかー?」
「えーと、数ヶ月・・・? 半年はいなかったねえ。」
「その前の人はー?」
「担当外だったから、覚えてないねえ。」

話が進まない、と感じたアッシュは腹をくくった。
「てゆーか、直に訊きますけどー、私の立場って期限はあるんですかー?」
「さあ? わかんないねえ。」
「たとえばですよー、私がここで部屋と食堂の往復で
 一生を過ごす事は可能ですかー?」

「ああーーー、なるほど、質問の意味がわかったよ。
 だけど、そういう例はないからねえ。
 ここに来るヤツは目的を持って来てるんだよ。
 だから今までにそんな事をしたヤツは聞いた事がない。
 大抵が、数週間単位でカタが付いてるんじゃないかねえ。
 グレーの時に、“長すぎる” と感じたからね。
 でも、あんたをタダで養うほど、主は甘くないと思うよ。」
「その目的とは、ここの相続ですよねー?
 それは、ここの管理権を貰うって事ですよねー?」
「さあ、そうなるんかねえ?」

ああ・・・さっぱりわからない。
アッシュはこめかみに人差し指を当ててうなった。
とりあえず、半年ぐらいはいられるんだ。
多分やる気を見せないとダメっぽいけど。

でも何か引っ掛かってる、何か見逃している、それが何かがわからない。
ドアの前でうなるアッシュの横で、ローズは困っていた。
自分の役目はアッシュを助ける事だが
アッシュの質問が、自分が役立つ範ちゅうじゃないのだ。
何を知りたいのかすら、伝わってこない。

「ねえ、食堂に行かないかい? あたしゃ昼飯がまだなんだよ。」
ああ、飯ね、と思いつつ、不機嫌そうについて来るアッシュ。
この兄妹はほんとやりにくいね、ローズは疲れ果てていた。


「ここのこれが美味いんだよ。」
カウンターでチキンサンドを勧めるローズに、アッシュは言い捨てた。
「私、鶏肉嫌いなんですー。 前世が鳥だったのかもー。」
「・・・?・・・」
混乱するローズの顔を、気の毒そうにチラ見するウェイトレス。

「あ、そう、そうかい。 だったら他のを食べな。
 チキン以外も美味いよ。」
「チキンー?」
「うん、チキンカツ。」
「あっっっ!!!!!!」

その場にいた、ひとり残らずがビクッとした。
そう! これだったんだよ、引っ掛かってたのは!!!
周囲の動揺など目に入らず、ガッツポーズをするアッシュ。
ウェイトレスが視線でローズに 「何?」 と訊き
ローズは肩をすくめて首を横に振ったその時、アッシュが叫んだ。
「ローズさん、チキンサンドお持ち帰りして、部屋で食べましょうー!
 あ、私コーヒーと卵サンドでいきますー。」


問答無用でローズの部屋に取って返したアッシュは
テーブルにトレイを置くなり、まくしたてた。
「一番の疑問はこれだったんですー!」
アッシュはローズのトレイのチキンサンドを指差した。

「そう! あの歯医者さえビビって行かないチキンな兄が
 何故このようなデスゲームに参加したのか、って疑問ですー!」
やれやれ、実の兄を言いたい放題だね、ローズは気が抜ける思いだった。
「このゲームには、どんなメリットがあるんですかー?」
「ゲームじゃないんだけど・・・、ここの相続だろ?」
「本当にそれだけなんですかー?」
「あたしはそれしか知らない。」

「そう・・・ですかー・・・。
 じゃあ、兄はここでどんな事をしてたんですかー?」
この質問で、ローズのどっかのスイッチが入った。


「グレーは、あんたの兄ちゃんはそりゃもう人使いが荒くてね。
 しかも自分じゃ何もしないんだ。
 あたしの役目がそれだから、まあしょうがないけど
 あれしろこれしろうるさくて、自分じゃ一度も戦った事すらない。
 あげくが、『自分が動くのはバカげている
 人に指図して動かすのが一番だ』 などと、のうのうと言って
 ほんと仕えている人間にとってはイヤなヤツだったよ!
 それに一日の感覚がおかしいんだよ。
 明け方まで酒を飲んで、朝方から寝て夕方起きてきて
 チョロチョロしたかと思えば、また酒を飲み始める。」

ああーーー、そういうヤツでしたー。
アッシュは何度も何度も深く頷きながら聞いていた。
「で、兄はどうなったんですかー? 殺されたんですかー?」
「あたしが付いてて、そんな事させるもんか!
 グレーはね、深酒しすぎて、起きた時に酔いが醒めてなくて
 そこの階段から転げ落ちて、頭を打って死んだんだよ!」

ああ・・・何て悲しい最後だったの、お兄ちゃん・・・
アッシュは思わず、両手で顔を覆った。

「それで・・・兄の遺体はどこに・・・?」
「この館の敷地内の墓地に眠っているよ。」
「あ・・・、一応埋葬はされたんですか・・・?」
「当たり前だよ! 死人は皆墓地に葬るもんだよ。」

「・・・まあ・・・、それは何より・・・。」
そう応えはしたが、兄のあまりの死に様に
やはりかなりのショックを受けているようだ。


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ジャンル・やかた 7

両手で顔を覆ったままのアッシュの肩が、ブルブル震え始めた。
無理ないよね、肉親の死の詳細を聞かされたんだから。
ローズは黙って見守ろうと、紅茶をひと口飲んだ。
 
「ふ・・・ふ・・・」
アッシュの口から、嗚咽が漏れ始める。
泣くだけ泣きゃ良いさ、とローズが言おうとした瞬間
「ぶぅわっはっはっはっは」
と、アッシュが大笑いをし始めた。

目を丸くして固まるローズに、アッシュが爆笑しながら話す。
「すっ、すいま・・・あーっはっはっはっは
 わら・・・ちゃいけ・・・ない・・・はははははは
 思う・・・けど・・・・、あはははははは」

かなりの時間ソファーの上で、腹を抱えてのたうち回った後
アッシュがちょっと落ち着いて続ける。
「だって、この状況って簡単に殺されるわけでしょうー?
 それを・・・わざわざ何でそんな意外な死に方・・・ブブッ を
 しかもよりによって、何でそんな ハハハハ それ以上ないぐらい
 情けな・・・ アーーーーーーーーッハッハッハッハ」

再びアッシュは爆笑し始め、意図を理解したローズもつられて笑う。
「だよねえ? あたし、絶対口にしなかったんだけど
 情けないよねえ? あーーーーーーっはっはっはっはっは」
「不謹慎だけど・・・あははははははは、ありえねえーーーーっ」

ふたりで、ひとしきり大笑いした後、食欲が出たのか
アッシュは、あー腹痛え、と言いつつ、涙を拭きながら
卵サンドをモソモソ頬張った。


トレイの上の食料を平らげた後、ローズが切り出した。
「で、あんたこれから何をするんだい?」
「あ、ひとつ質問があるんですがー。」
「また質問かい? あたしゃ武闘派なんだよ。
 あれこれ喋るヒマがあったら、とっとと動きたいねえ。」

「ローズさん、気持ちはわかるんで、ほんと申し訳ないんですけどー
 私はわかってて来た人たちより、状況的に厳しいと思うんですー。
 死なないための、最低限の情報が欲しいんですー。」
「まあ、そうだろうね。
 わかったよ、知ってる事は答えると言ったし、何だい?」

「敵と味方と中立の人の見分け方は何ですかー?」
「ああ、それは私にもわからない。
 志願もあるけど、主の指示で決まるようだね。」
「途中で役目が変わる事はあるんですかー?」
「さあ? よくわからないね。
 ただ住居区では、敵も味方も普通に応対する決まりだよ。」
「あっ、ここ3階ですよねー? 他の階は何があるんですかー?
 見取り図ありますかー?」
「ごめん、正直に言うけど、それは言っちゃいけないんだ。」

あー、やっぱダンジョン攻略のカギはマップだよな。
ローズは掃除係、館内のつくりが頭に入っていないわけがない。
逆に言えば、ローズ攻略が出来るかがカギ、って事か?
アッシュは考え込んだ。


「ローズさん、もし万が一私が主に会えたとして
 その時のあなたのメリットって何なんですかー?」
「館内での地位が上がるらしいんだ。」
「らしいー? 噂ですかー?」
「あたしがここに来てから、主に会えたヤツがいないからさあ。」
「え? 今までに相続者って何人ぐらい見ましたー?」
「えーと、記憶にあるのは・・・、護衛をした時だけだねえ
 他はよくわかんないねえ、関わってない時も多かったからねえ。」
「去年は何人来ましたー?」
「3人? 4人? 本当にわかんないよ。
 去年は1度しか参加してないしさ。」

「ローズさん、ここに来て何年ですかー?」
「うーん、あたしが来たのは何歳の時だったかねえ?
 子供の頃の記憶はないんだよ。」
「子供の頃・・・ですかー・・・。」

こ・・・これは思ってたよりも遥かに難関な気がする!
と、アッシュは青ざめた。
何も知らない自分には、攻略はほぼ不可能だとしか思えない。


「敵味方、平均何人ですかー?」
「あのさ、そういうのは知らされていないんだ。
 味方は私ひとりだと思って良い。 多分、他にはいないはず。
 ただ敵は、あんたを居住区以外で見かけたら、殺しに来る。
 私を狙うんじゃなく、あんたを狙うんだ。
 それだけは頭に入れときな。」

ダメだ、私には無理すぎる。
アッシュはそう確信したが、諦めを口にするのは
このたったひとりの味方すら失う事になる。
何とか表面だけでも取り繕わねば、半年の寿命が分単位になってしまう。

寿命・・・、最長半年の寿命って、言われると結構キツいな・・・。
アッシュは引きつりながらも、笑みを浮かべた。
その姿は、ローズには余裕の表われに見えた。

「わかりましたー。
 ちょっと調べ物をしますので、また何かあったら訊きに来ますー。
 動くのは、早くても明日以降になると思いますので
 もう少し待っててくださいねー。」
立ち上がるアッシュに、ローズは頼もしさすら感じたのは
アッシュの無表情さと、場にそぐわない笑みのせいであろう。


アッシュは無言で、ローズのトレイも一緒に持って部屋を出た。
食堂までの廊下を、視点を真っ直ぐに保ち
目の端だけでカメラの存在を確認していく。

カメラはひと部屋おきに、方向を逆に左右に1台ずつ設置してある。
食堂のカメラは確認できるだけでも6台、厨房にもあるだろう。

カウンターのトレイ返却場にトレイを置いたあと
食事をしている数人をチラッと見た。
成人の男女で、全員が労働者風である。


「あっっっ!」
アッシュの大声で、食事をしている者全員がビクッとした。
厨房にいる中年女性に向かって、アッシュが訊ねた。
「すいませーん、ここ、ご飯出ないんですかあー?」
「ご飯?」
「お米ですー。 ライスー、パンじゃなくライスー。」
「ああ、米ならサラダでたまに出すよ。」
「ダメです! それは本来の食べ方じゃない!
 お米は主食なんですよー。 私、ないと、ほんと辛いんですー。
 お米、パンと別個に出してくださいーーー!」

アッシュの勢いに押され、女性が当たり障りなく終わらせようとする。
「あ・・・ああ、じゃあ訊いとくよ。」
「絶対ですよー? プロミスですからねーーー。」
アッシュが小指を立てながら食堂を出て行った後
しばらくあたりは静寂に包まれた。

誰からともなく、口を開く。
「よくわからんが・・・。」
「何となく不気味だね・・・。」


続く。


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ジャンル・やかた 8

アッシュはパソコンと格闘していた。
スレイプニールまでは期待していなかったけど
インターネットエクスプローラーってのがない!!! 何で???
 
こんな時は、スタートから・・・で、どこだっけ
英語だからよくわからーーーーーーーーーん!!!
確かここを見れば、ソフト?とかあるはず。
一番下の緑の矢印のところをクリックした。

eマークは全世界共通だよね?
あ、あった、クリッククリックーーーと。
ウィンドウが開くも、何かが書いてあるだけのページしかない。
こっからヤフーとか、どう開くんだろ?

アウトルックは?
スタートから、プログラムで・・・・・
あ、あった、クリッククリックーーーと。
ウィンドウが開くも、これまた白紙のページ。
メールは1通もなく、送受信も利いてないようだ。


えーとえーとと言う事はーーーーーー
モデムとか言う箱! 何か、ないような気がするーーーーーーー
これはインターネッツには繋がっていないという事ですかーーーーーー?
ええっ? じゃあ、このパソコン、単なるワープロ?
何てこったい!

あっっっ、じゃあ、携帯のネットは?
ーーーーーーーーーーー 圏外だから繋がるわけがねーーーーーーっ!
電話! 電話は? 電話のモジュラー何たらはあるんか?

パソコンから出ているコードを辿って行くと
壁にあったのは、差込口が2個の普通のコンセントだけであった。
電話をつける余地すらない作りなんだ・・・。
じゃあ、ここの住人は電話は使わないんか?


アッシュはローズの部屋に駆け込んだ。
「あんたねえ、ノックぐらいしなよ。」
ごく当然の激怒をするローズに、アッシュは
ほんとすいませんほんとすいません、とペコペコする。

「で、今度は何だい?」
「電話はどっかにありますかー?」
「あるけど、あんたは掛けられないよ。」
「携帯電話って知ってますかー?」
「知ってるよ! 持ってるヤツもいるけど、私には必要ないね。
 ここら一体は圏外だろ、持ってても意味ないからね。」
「電話、私は何故掛けられないんですかー?」
「・・・あんたの話は前後するねえ。
 あんたが外に話を漏らすと困るからだろ。」
「じゃなくてー、えーと、ここの電話は相手先に直通なんですかー?
 それとも交換手がいるんですかー?」
「交換手・・・? うーん、聞いた事がないねえ。
 でも掛けたら相手にすぐ繋がるよ。」

うーん、よくわからない。
自分の疑問もよくわからない。
何を考えてたんだっけ?
にしても、走ったからゼイゼイだわ、あっつい。 あれ?

「・・・・・・今、3月ですよねえー?
 ここらへんの気候って、今ぐらいはもう暖かいんですかー?」
「いや、4月半ばまではまだまだ冷えるねえ。
 丘の方は雪も残ってるよ、ここいらは寒い地方なんだ。」
「でも、あったかいですよねえー?」
「セントラルエアコンとかいうやつだからね。
 1年中適温に設定されてて、館内は快適だよ。」


そうなんだ!
この館は外見は古いけど、中は最新設備が整ってるんだ!
「ローズさん、“指示” って言ってましたけど
 それってどうやって受けるんですかー?
 上の人みたいなんとは、どうやって連絡を取るんですかー?」
「ああ、そこの内部専用電話でだよ。
 あんたの部屋は、相続者専用だからないだろうけどね。」

ローズが指を差した方を見ると、ファックス付き電話機が置いてあった。
どうやら他の住人の部屋にも、これで電話を出来るようだ。
館内には、外部に繋がる電話機自体がないのかも知れない。


改めて部屋を見回すと、ローズの部屋は寝室が別になっている。
このリビングには、TVに冷蔵庫、電子レンジも置いてある。
ドアの真上を見ると、ブレーカーが4個並んでいた。
見取り図はない代わりに、空調パネルがある。

アッシュは窓に駆け寄り、向かいの建物の屋上を見上げた。
アンテナなどは見当たらない。

廊下に出て、窓の外を見る。
こっちは裏側のようで、草原が広がっていて
見える範囲の正面奥と左手に丘陵地帯、正面の丘の向こうは山
右手範囲は森が続いていて、その先は開けているようだが見えない。


食堂に駆け込み、窓を開けて上下左右を見回す。
右側は他の住人の部屋が並んでいるんで確認が出来ない。
だからここで出来る限り見ないと。
アッシュは身を乗り出して、右手側を覗き込んだ。

「おいおい、危ないよ、お嬢ちゃん。」
じいさんがオロオロして、アッシュのジーンズのベルトを握る。
アッシュが遠くに見たのは、鉄塔だった。
ダメだ、こっちからでは見えない。

じゃあ、真下だ!
「ごめんねー、ありがとうーーー。」
と、じいさんに叫びながら、アッシュは食堂を飛び出して行った。
じいさんは、あうあう言いながら、アッシュの背中を見送った。


真下、つまり東西南北を書いていない見取り図で言うフロアの南
居住区のその部分に来たアッシュは、激しく動揺していた。
ここに部屋はなく、壁もまたなく、あったのは手摺りである。

見下ろすと、昨日入って来た玄関ホールがある。
そのホールをはさんで真向かいには、また別の建物が続いていた。
ここまで大きい建物だったとは・・・。
アッシュは愕然とした。


続く。


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ジャンル・やかた 9

「ちょっとあんた、ひとりでそれ以上行くんじゃないよ!」
ローズが背後から叫んだ瞬間、アッシュは察知した。
 
ああ、そうか、ローズは私の見張り役でもあるんだ。
いやローズだけではない。
この館にいる人全員が、自分を見張っているんだ・・・。

ちょっと気落ちしかけたが、考え直す。
もし私が主だったら、同じようにした。
これはゲームではないのだ。 挑戦者が対等になれるわけがない。
味方をつけてくれるだけでも、主側には温情があると言えよう。
私が主だったら、ひとりvs大勢でフクロのなぶり殺しだね。


あれ? アッシュは考え込んだ。
“相続” って、主が在任している以上、“交代” だよね?
交代するメリットって、主側にあるのか?
もしかして、“主” の立場自体がデメリットがあるんか?
でも挑戦者の多さは、主になりたいヤツが大勢いる、って事だよね。

てか、私は実の兄からだから、“相続” だけど
兄は誰から相続されたんだ?

考え込むアッシュに、隣でワアワア怒鳴っているローズ。
そのローズを顔を見つめて、アッシュは思った。
この状況には、わからない事が多すぎる。
多分、最後までわからないんだろう。
言葉の意味について迷うより
実際にある事のみを見た方が良いような気がする。


手摺りに捕まって、上半身を上下させ
玄関ドアの上のガラス窓の向こうを見ようとするアッシュ。

よくは見えないけど、きっと敷地内の電線は地中を通っている。
と言う事は、地下室があるって事か。
でも主の交代は、ローズの記憶にはないようだ。
普通ならそんな長期間、地下で暮らしたくはない。
主は絶対に、地上のどっかの部屋にいるはず。
そんでモニタールームってのがあって、その近くにその部屋はある!

「ローズさん、この館に電気屋さんっていますよねー?」
「電気屋? 電気技師ならいるよ。」
「その人に会いたいんですけど、どこにいますかー?」
「仕事場は地下だね。」
「そこ、危険ですよねー? 行けると思いますかー?」
「行ってどうするんだい? 敵だったら殺しにかかってくるよ。」
「あっ!!! そうか! それはしまった・・・。
 私、その人に話が訊きたいんですがー・・・。」
「だったら食堂で待つしかないね。 で、どいつに会いたいんだい?」
「あっっっ・・・・・、何人いるんですかー? 電気技師さんってー。」
「んーーー、5人? 6人?」

やっぱ、この館すげえ、とアッシュは思った。
普通なら、館の管理に何人もの技師はいらないはず。
この館は電気制御されているのだ。


「ここ、地下何階ですかー?」
「さあね。」
「あなたは一緒に考えてはくれないんですよねえー?」
「あたしは護衛だからね。」
あー、私の知能じゃ限界があるー!!!
アッシュは自分が理系じゃなかった事を、激しく後悔した。

いや、ローズとの会話は端々にヒントが隠れている。
それを積み重ねれば、真実が見えてくるはず。
やっぱりこまめな質問は必要だ。
詐欺系の名にかけて! って、違うわ!

脳内ひとりボケ突っ込みに、アッシュは微笑し
それをローズはまだ慣れていないのか、目をそらした。


「じゃ、行きましょうかー?」
アッシュがそう声を掛けると、ローズは嬉しそうに応えた。
「おっ、やっと出陣かい、どこにだい?」
「だーかーらー、地下にですってばー。」
ヘラヘラ言うアッシュに、ローズは軽蔑の目を向けた。
「地下は関係者以外、立ち入り禁止だよ。」
「えっっっ!」

そりゃそうだよな、言わば館の要によそ者を出入りさせるわけがない。
だけどこれで、地下に電気系統の何かがあるのは確実。
5~6人の技師・・・、24時間体制であろう。

アッシュはまたローズの顔を見つめた。
ローズに自分の思惑を言うべきか言わざるべきか。
たとえ何も助言を貰えなくても、“同意” は必要なんじゃないのか?
義務での護衛より、自分に感情移入をしてもらった方が
後々やりやすいのではないだろうか?

でも、ローズからこっちの情報が漏れたら・・・?
アッシュは両こめかみを指で押さえながら、うなった。


いや、どうせ主側が有利なのは変わらない。
だったらローズの “肩入れ” に期待する方が、可能性がある。
意を決したアッシュは、ローズの目を見据えて訊いた。

「あなたには私の情報を誰かに伝える役目もあるんですかー?」
アッシュの真剣な目に、ローズはとまどった。
「そういう役目はない。 あくまで護衛なんだ。」
「攻略に関するヒントもくれない代わりに
 周囲にも私の事を何も言わない、という事ですかー?」
「そうだよ。 そんなコウモリのような事はしないよ。」
「わかりました。 信じます。 来てください。」

アッシュはローズを促し、自分の部屋に戻った。
部屋の中央に立ったアッシュは、振り返ってローズに語り始めた。


続く。


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ジャンル・やかた 10

「私がまず思ったのは、挑戦期間ですー。
 普通は数週間なのに、兄は数ヶ月生きていられましたよねー?
 まあ、最後は自爆ですがー。」
いつものアッシュなら、ここで笑うとこなのだが
真面目な顔で続けるので、ローズも無言で聞き入った。
 
「つまり今までの挑戦者は、武闘派だったのでしょうー。
 館中を探して回るというストレートな方法ばかりだった。
 だけど兄が探していたのは、主の部屋じゃなくて
 主の部屋に繋がる手掛かりだったんじゃないんですかー?」

ローズが口を挟んだ。
「いや、あたしは何も聞かされてないんだよ。
 上からもグレーからも。
 あたしの知ってる事は、本当に少ないんだ。」
「あなたが嘘を付いていないのはわかりますー。
 あなたが知っていて言えないのは、館の間取りだけですよねー?」
「うん、大体そんなもんだ。」

ローズはちょっと驚いた。
真剣にバカだバカだと思っていたアッシュが
こっちの状況を読んでいる事が信じられないのだ。
それほど心の底からアッシュをバカだと信じていたのである。


「ローズさん、私が知りたいのは、電気の流れなんですー。」
「はあ? 電気・・・?」
ああ、やっぱりバカだ、とローズはガックリきた。

「はい。 電気ですー。
 この館って、古いようでいて凄い電子制御がされていますよねー。
 私の今いるこの建物のこの階の廊下だけで、カメラが6個ー。
 6階建ての多分地下2階、それが8棟ー!
 全体の電気の使用量は、ものすごいもののはずですー。」

「ちょっと待った、地下が何で2階なんだい?」
「これはあまり自信がない推理なんですけどー
 敷地内は電気や電話線は、地下ケーブルで通ってないですかー?
 だったら外部からの電気の入り口は、地下ですよねー?
 警備や設備の搬入とかを考えて、よくわからないですけどー
 とにかく地下1階に電気系統の制御室がある、と考えたんですー。」
真偽はともかくも推理が出来る頭はあるんだ、とローズは再び驚いた。

「そして、こういう作りの建物には、必ず地下水路が通ってますー。
 今まで観た映画ではそうでしたもんー。
 歴史やら地盤やらはわからないですけどー
 何となく、地下はあっても2階までじゃないかとー。 勘ですがー。
 そんで水路と同じ階に、ビリビリくる電気系統は持って来たくないんでー
 ここは元々地下2階に水路があってー、地下1階は牢屋とか拷問室とかでー
 そこを電気関係の部屋として利用するんじゃないかとー。」
ローズもそこまでは知らないのだが
アッシュの言ってる事が正しいような気がして、ほおー、と声を漏らした。


へっ、本気を出せばこんぐらい軽いぜ! と、アッシュは図に乗った。
「主の部屋がどこかはわかりませんがー
 この監視カメラの数からいっても、かなり多くのモニターがあるわけで
 モニター室がどこかにあると思うんですー。
 私が主なら、しょっちゅうそのモニターを見ていたいので
 主の部屋の近くにモニター室もあるんじゃないかと考えたんですー。
 私は電気には詳しくないですけど
 最初に館に電気が入ってくる場所があって
 そこから各階に電気を流しているのだから
 その場所にはどこにどれだけ電気を流しているか、表示があって
 ケタ外れに電気消費量の多い部屋、そこがモニター室だろう
 そこを見つければ主の部屋も近い、と、考えてるわけですー。
 だから地下に行きたいんですー。」

「・・・あんた、凄いね・・・。」
よくわからないが、あまりの意外性にローズがつぶやいた。
「私の電気の知識は、某専門誌の受け売りですけどねー。」
アッシュが天狗になって、表面だけの謙遜をする。


「でもさ、地下には入れないんだよ。
 それはルール違反になるんで、即刻失格になるよ。」
「へえ、そうなんですかー。
 うーん、・・・・・・・ そうかあー
 そのルールだけで地下の価値がわかったから、もう良いですー。」
あ、なるほど、とローズは思った。

「じゃあ、どうするんだい?」
「私も無謀な特攻はしたくないので、的を絞りたいんですー。
 兄の行ってた先を教えてくれませんかー?」
「あー・・・、悪いんだけどそれは言えない。」

アッシュが食い下がる。
「上か下か、北か南かだけでもーーーーーっ!」
「失格になりたいのかい? 即刻死刑だよ?」
「うーーーーーーーーーー・・・・・・・」

頭を抱えるアッシュに、なだめるようにローズが語りかけた。
「あたしだって困ってるんだよ。
 あんたは主の座を望んで来たわけじゃない。
 言ってみれば、無欲な被害者であって、本当に気の毒に思うんだよ。
 でもあんたは来ちゃっただろ。
 始まっちゃったんだから、終わらせるしかない。
 できればあんたに代替わりを成し遂げてもらいたいんだよ。」
「・・・・・本当ですかー?」
「今は本当にそう思っているよ。」

「ありがとうございますー、ローズさんー。 嬉しいですー。
 あなたのためにも頑張りますー。」
「グレーのためじゃないんかい?」
「あんなバカ兄貴の事はどうでもいいですよーっ
 そもそもあいつがこの惨事の元凶ですもんー。」

そりゃそうだね、とローズも心の底でうなずいた。
「じゃ、まだ出掛けないんだね。 用事が出来たら声を掛けな。」
部屋を出ようとするローズに、アッシュが訊いた。
「ローズさん、あなたはこの館内で引越しした事がありますかー?」

「一度だけだったかね。 何でそんな事を聞くんだい?」
「居住区はここだけじゃないんでしょー?
 他の居住区でも私は安全でいられますかー?」
「さあね。 だけど居住区内だけは安全なんだよ。」
「そうですかー、ありがとうー。」

「?」
首をひねりながら、ローズは出て行った。


引越しはない、という事は
ローズさんの部屋があるから、私もこの部屋なんだよね
だったら他のフロアにも挑戦者専用部屋ってのがあるかも?

そんで? いや、ただそんだけ・・・。
自分が推理している事が、あまり役に立たないと気付いて
さっきまでの天狗気分が、一気に冷めてしまったアッシュだった。

何か忘れてる気がする・・・

アッシュは詰まる度に、繰り返しこの言葉を思い
それはもう、一種の呪文のようになっていた。


続く。


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ジャンル・やかた 11

頑張る、とは言ったものの、やはりムカついてはいた。
すべてを知る事が出来ない現実にである。
 
こうなったら私の推理を全部、後続のヤツらに残しちゃる!
アッシュは自宅では絶対にしない点けっ放しのパソコンに向かった。
フォルダを作り、名を “Ash Fail” と付ける。

何か極秘ファイルのようでかっこいーーーーー!
アッシュはご満悦だったが、え? “ファイル” って言いたかったのか?
だったらFILEが正しいのだが、アッシュの英語力はこんなもんである。
(いや、素でFailと打ってたぜ。 調べて良かったーーー!)

ワードもエクセルも、その違いすら知らないので
メモ帳を開き、そこに今までに思い付いた推理や見聞きした情報を
人差し指1本でガシガシ打ち込む。
しかもキーボードが英字のみなので、ローマ字で。
日本語がわからんヤツなど、知った事かい!
アッシュは、気持ちがささくれ立っていた。


うーん、これじゃわかりにくいかなー、図解も必要かなー。
いやもう、日本語をローマ字で書いてる事自体
1行も読む気がしなくなるほど、わかりにくくて
図解など、何の付け足しにもならないのだが
そう思った瞬間、あのペイント太字地図が脳裏に甦った。

もしかして、他の相続者も同じ心境になったかも!
あの図解って、やる気を削ぐためのワナなんじゃねえの?

デスクトップの他のファイルを開いていくと
当たり前だが、全部英語であった。
くわーーーーーーーーっ
日本語のわからないヤツに仕返しされてるうううううううっ!

別に誰もアッシュを想定して打ったわけではないのだが
今のアッシュは、とことん被害者意識で一杯であった。


その頃、ローズは食堂にいた。
時計の針は、もう夕方の7時を回っている。
あいつ、夕飯は食わないんかね?
あまり飲み食いしないようだけど、あんなに痩せ細ってて大丈夫かねえ。

親しい誰もがアッシュに対して抱く心配を、ローズが思ったのは
アッシュを少し好きになりかけている事だという事に
ローズは気付いてはいない。


ローズは “敵” としては、指示がない限り動かなかった。
普段の生活では、決して好戦的ではない性格のせいと
自分が行けば、その回の相続は終わる、という
自分の戦闘能力に対して、揺るぎない自信があるからである。

しかしローズは、過去に4人の相続者の護衛をしていて
そのすべてが相続者の死で終わっている。

だけどそれは、ヤツらがあたしの言う事を聞かずに突っ走ったからだよ。
グレーは自分では戦わなかったから、いけると思ったんだけどねえ。
ローズにとって、グレーの結果は消えない深い後悔でしかなかった。

その妹であるアッシュ。
理解できない言動が、何を考えているのかわからなかったけど
アッシュなりに色々と考えて、挑戦している事がわかったし
今のところ、あたしの言う事は素直に聞いてるし
後は戦闘でどう動くかがキモだね。

ローズも、この相続が腕っぷしだけじゃクリア出来ない事を薄々感じていた。
グレーといいアッシュといい、この兄妹は
動きのなさにイライラさせられるけど
それはそれで、正しいやり方を選んでいるような気がする。


兄と同じ、それはアッシュにとっては最大の賛辞である。
自他共に天才と認められていた兄
その差の大きさに、妹はその背を追えずにもいた。

しかしアッシュもまた気付いていない。
投げやりなローズが、アッシュに対して徐々に惹かれている事を。
それは館の頂点に立つ主の資質として、欠かせぬ要素
得なければならない住人の尊敬の第一歩、である事に他ならないのだ。


が、こういう時に無意識に台無しにするのが、アッシュの常。
「ちょっと、あんた、飯は食わないのかい?」
アッシュの部屋のドアを開けたローズの目に飛び込んできたのは
顔面に紙を貼ったアッシュの姿であった。

「・・・それは何のまじないだい?」
ローズが怪訝そうに訊くと、アッシュはローズを手招きした。
近寄ったローズの鼻先に顔をくっつけて
アッシュはジロジロとローズの肌をチェックした。

「ローズさんー、お肌のお手入れ、してないでしょー?
 日焼け止めとか、ちゃんと塗ってないでしょー?
 ここのシミとここのシワは、その証明ですよー。
 ほら、ここらへん、たるんで毛穴も開いてきているーーー!
 ちゃんとお手入れをしないと、ゴッと老けますよー。
 ほら、私、プルップルでしょー。」
紙を剥がしたアッシュの肌は、確かに透き通って美しかった。

「東洋人は肌がキレイだからね。」
「東洋人とひとくくりにしないでくださいー!
 日本人!の肌がキレイなんですー!!
 それは日本人が、遺伝子とか水とかに恵まれてるからだけではなく
 お手入れをきっちりする性格だからでもあるんですーーーっ!」
「あんた、いくつなんだい?」

アッシュはローズに意気揚々と耳打ちした。
「えっ、あたしより年上なのかい?」
ローズのその驚きは、アッシュにとっては当然の反応だったが
それはアッシュの最も好きな場面であった。

アッシュは高らかに笑った。
「ほーーーーっほほほほほほ!」
テーブルの上に並べられた大小様々な形の容器を示し
「この面倒くさいお手入れをこなしてこその、若さなのですわよー!」


この後アッシュは、美容の知識をまくしたて
ローズをとことんウンザリさせた。


続く。


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ジャンル・やかた 12

目覚めたアッシュは、珍しく爽快だった。
衝撃続きの最近の展開に、一気に老けた気分になっていたのだが
まだまだ私の美肌健在!
アッシュは天狗感覚を取り戻していた。
 
その勢いで、今後の予定も決めた。
やっぱ私は天狗になってこそ、私なんだよなー。
アッシュは珍しくハイテンションだった。


「勇者よ、旅立つのじゃー、さあ冒険の始まりですー
 ♪ ちゃらっちゃちゃっちゃ ちゃっちゃー ♪
 これから4階に行きますー。
 だけどただの4階じゃないんですー。
 何と! ジャジャーーーン! 南館の4階ですーーー!」

アッシュがそう言いながら、クルッと回って
両手を広げ、左足を前に出し右足を後ろに流し、膝を曲げて軽く会釈をした。

ドア口のアッシュの道化を見せられて
呆然としたローズと、アッシュの後ろを通りがかった女性の目が合い
通りがかりは気の毒そうに目を逸らした。

ローズは、ものすごい恥を掻かされた気分になったが
やっと自分の出番が回ってきたので、無言で廊下に出た。


階段の前に来て、ローズがやっと口を開く。
「南の4階はあそこだけど、この階段をホールまで降りて
 向こうの階段を4階まで上らなきゃならないよ。」
「北と南と通路で繋がってたんなら早いんですけどねえー。」
と答えるアッシュに、ローズははた、と訊き返した。

「そういや、何であっちが南だとわかったんだい?」
「曇ってるけど、夕方微かにあっちの雲が赤かったんですー。
 あっちが西なんでしょうー?」
「へえ・・・?」
関心するローズに、アッシュはちょっとムッときた。

「いい加減、私の知性を認めてくれませんかねえー?」
「天才と紙一重、って言うけど、そうなのかもねえ。」
「それは兄の方だと思いますー。
 私は凡才だけど、一般常識はあるんですー!」
前半は同意するけど、最後の部分はどうだかね。
ローズは腹の中で思った。


玄関ホールまでは、何事もなく進めた。
問題はこっからなんだよね、とローズが思った途端
長身の男性が現れた。

「新相続者! 無知なる未知者!
 俺が腕を確かめてやる。
 3つ数えたら開始しよう。 3・・・」
ローズの鋏が男の腹に刺さっていた。

倒れ行く男を見て、アッシュが叫んだ。
「卑怯くせえーーーーーーっっっ!!!」
「何がだい?」
男の腹から鋏を引き抜きながら、ローズがアッシュを睨んだ。

「カウントダウンの途中だったのにー。」
「それをご丁寧に待ってどうするんだい?
 これは決闘じゃないんだよ?
 わけわからん能書きたれるこの男もバカだけど
 それをボケッと聞くあんたも相当のバカだね。」

アッシュは恐くて男に近寄れず、遠巻きに訊いた。
「その人、死なないですよねー・・・?」
「死のうが死ぬまいが、そんな事はどうでもいい!
 こっちが考えるべきは、戦闘可能かどうかの1点だけさ!」


ローズが怒り始めたので、アッシュは黙り込んだが
先ほどまでのテンションが暗転したかのように、地の底に落ち
恐怖に怯え、膝が震えているのがわかった。

負けたら私もああなる、って事だよね? むっちゃくちゃ痛そう・・・。
即死ならまだ良いけど、中途半端に刺されたらどうしよう。

目前で起こっている出来事は、映画などではよく観ていたけど
それが現実だと認識せざるを得ないのは
男のたてるうめき声が、あまりに苦しそうだからだ。

他人のあんな声、聞いた事がない!
アッシュは耐え切れず、天井を見上げながら
両耳に指を突っ込んで振動させながら、あーあー言った。


ローズはアッシュの受けているショックを理解できた。
自分も初めての時は、このうめき声にビビったものだ。
あの時の自分は、ショックから身動きが取れず
その後何日も食事を採れずに衰弱したものだ。

立ち直れたのは、周囲の冷笑に負けたくなかったからで
それでも数ヶ月して、やっと再び戦えるようになったのに
こいつはその場で自分でどうにかしようと努力をしている。

ローズはアッシュの肩に手を置いて
照れくささを隠すかのように、ぶっきらぼうに言った。
「グレーがいつも言ってた。
 『妹は実は俺より凄いんだ。』 って。
 確かにあんたは大物かも知れない。」

「へ?」
指を突っ込んで、あーあー言ってたアッシュに
ローズの言葉が聞こえるわけがなかった。
間抜け面して振り向くアッシュに、ローズは激しくイラッとしたが
こらえて、同じセリフを繰り返した。
ここで挫折されたら困るから、とにかくおだてないと。


少々棒読みになったが、ローズの読みは当たり
アッシュの心は木に登りまくった。
「兄がそんな事をー? 私、大物ですかー?
 何でそう思うんですかー? 『詳しく』 しても良いですかー?」

あーもう、またわけのわからん事を言い始めた。
バカはおだてやすいのは良いけど、調子に乗るから面倒なんだよねーーー。

ローズは忍耐力をフル発揮しながら言った。
「優れた適応能力があるような気がするんだよ、あんたには。」
「・・・適応能力ですかー。 別に優れてないですけどねー。」
どれだけの大賛辞を期待していたのか
贅沢にもアッシュは、その答にガッカリした。

こいつが真に優れているのは、忘却だろうね。
もう、さっきの戦闘の事を忘れて、ひょこひょこ着いて来ている。
目まぐるしく変わる話題も、それを表しているんだね。
階段を上りながら、ローズはひとり納得した。


4階に着いた。
行き道の敵は1回だったか。
いつもより少ないのは、ハンデが与えられているのか?

玄関ホールを見下ろすローズに、アッシュが声を掛けた。
「ローズさん、ここのドア、開けて良いですかねー?」
「開けちゃダメだ。 ここは居住区、非戦闘区域だよ。」
「あー、やっぱ3~4階でしたかー。
 開けちゃダメ、って事は、居住区には主の部屋はないんですねー?」
「そうなるね。」

4階をグルリと一周したら、アッシュの居住区と同じ間取りだった。
ただ、洗濯室はあるが、食堂の場所は娯楽室になっていた。
もしかして北館の4階も、こうなってるんだろうか。

「3階に下りてみましょうー。」
アッシュの言葉に、ローズが左右を確かめたのち階段を下りる。

「ここも居住区ですよねー。」
「そうだね。」
作りは北館の3階と対称になっているようだ。
南端に食堂がある。
「北館在住の私たちでも、ここで食事できますかー?」
「ああ、問題ない。 ちょうどお茶の時間だし何かつまもうかね。」
腕時計の針は、2時50分を指していた。


食堂には、6人の男女が固まって座っていた。
こっちに気付き、静まり返った様子にローズは悟った。
こういう時の話題は、相続者の噂ばかりなんだよね。

自分が護衛の役目ではない時には、ローズもそれに加わっていた。
しかし今は、第三者ではない。
ローズはある種の選民意識のような感覚に浸っていた。


「あー、同じシステムなんですねー。」
そう言いながら、アッシュは冷凍庫の中のアイスを
ディッシャーでゴリゴリ削っていた。

ローズがハムサンドと紅茶を持ってきたのに
アッシュの前にはストロベリーアイスが乗った皿が1枚だけである。
「あんた、今朝ちゃんと飯を食ったのかい?」
「11時ごろに、バタートーストを食べましたー。
 基本、1日2食なんですよねー。」

そうは言ったが、アッシュが飲み物やアイスしか摂らない時は
食べないのではなく、食べられないのである。

アッシュは事務的に物事を考える術が身に付いていたが
愚鈍なりにも、人間としての感情は普通にあるわけで
冷徹な脳処理のツケは、体にダイレクトに現れてしまう事に
いつもギリギリまで気付かずにいた。

ストレスに気付けないと、それをより大きく育ててしまう事を
アッシュは今までの人生で、学習できていなかったのである。


続く。


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      ジャンル・やかた 13 09.10.5

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ジャンル・やかた 13

「1日2食って、あんた、だからそんなに痩せ細っているんだよ。
 ちゃんと食べないと、体が持たないよ。」
この手のセリフを聞き飽きていたアッシュは、無視して
ローズのベルトに挟んである大鋏を見て言った。
 
「にしても、その大鋏、凄いですねー。
 グリップを閉じたら、鋏部分が飛び出るんですかー。
 あ、細いチェーンで繋がってるわけですねー?
 これ、自作ですかー?」

「ああ、これね。 もう何代目かね。
 鍛冶屋に作ってもらったんだよ。
 あたしゃ武器は何でもこなせるんだよ。
 ただ今回はたまたまこれにしただけさ。」
ローズが少し大声になったのは、周囲に聞こえるようにである。
来れるものなら来てみろ、という威嚇なのだ。

「あー、良いですねー。
 私も何か武器が欲しいですねえー。」
「あんたに武器が操れるのかい?」
ハッタリの賭けに出たローズに、アッシュが見事に応えた。

「まず接近戦用に、ナックルは必須ですよねー。
 でもそれはあくまで近付かれた時のためですから
 筋力が弱い私には、長刀みたいなんが欲しいですねえー。」
こいつもとんだハッタリ屋だな、とローズは痛快だったが
何とアッシュは本気で言っていた。

その場にいた人々には、アフタヌーンティーの話題に
のんびりと武器の希望などを語り合っているふたりの姿が
歴戦のツワモノに映っていた。


6人中5人がそう思っても、違う意見のヤツは必ずひとりはいる。
「あんたも役者だねえ。」
階段を下りながら、肘で突付いてくるローズの言葉の意味が
アッシュにはわからなかった。
が、ローズの眼差しの変化で、後ろに敵がいる事を察知した。

「おまえら、自信満々のようだな。」
ちっ、刺激しちゃったか、ローズは後悔した。
素早く大鋏を取り出したのだが、男はその刃を掴んだ。

力勝負だからって負けないよ!
ローズと男が睨み合って、力比べをしていたら
ローズの頭頂部の髪をかすめて、男の側頭部に何かが当たった。

アッシュが、そこいらに落ちている箱やら壷やらを
男の頭目掛けて投げたのである。
それもフルスイングで、容赦ない勢いである。

男が怯んだ瞬間をローズは見逃さず、鋏を突いた。
男は手摺りを背に、何とか踏みとどまったが
背が高いのが災いして、手摺りの外に反りかえるような体勢になった。

そこにアッシュが駆け寄り、男の片足にしがみ付き
持ち上げようとし始めた。

「おっ、おまえ鬼か?」
男はそう罵ったが、この数秒の一連の動きから
アッシュが自分の能力に合わせて、的確な反応をしている事を
ローズは読み取った。


文字通り、足をすくわれた形で男は階下に落下したが
その瞬間アッシュが耳を塞いだのをも、ローズは見逃さなかった。
男の落ちる音を聞きたくない、というのは
裏を返せば、どうなるかわかっててやったのだ。
罪悪感は? などと、キレイ事を言っていたアッシュが
自ら敵を手に掛けるなど、どれだけの覚悟か。

その上にアッシュが発した言葉は、ローズを感動させて余りあるものだった。
「大丈夫ですかー?」
敵の心配をするでもなく、己の不遇を嘆くでもなく
まず最初に口にしたのが、ローズの身を案じる言葉である。

こいつは恐るべきスピードで学んでいるのだ。
普通に育ってきた人間には理解が出来ないであろう、この環境下において
望んだわけでもない試練に、たった一日二日で順応しかけている。
こいつは本当に掘り出し物かも知れない。
ローズはアッシュの進化に、感嘆していた。


しかしアッシュの真意は、そこにはなかった。
アッシュは自分が被害者だという気持ちを手放してはいなかった。
むしろ、そこに唯一の救いを求めていたのである。

アッシュは常に、自分のつたない法知識に照らし合わせて
どう言い訳が出来るのかを考えていた。
だが、この状態では最早言い逃れは通用しない。

そうなれば、自分が如何に生き延びるか、のみに照準に合わせ
後はここの閉鎖性に期待するしかない。
それ以上に問題なのは、自分の倫理観とどう折り合わせるかである。

それがかなりの困難な思考転換ゆえに
他人の心配をして、小さな善行を積み重ねようとしているのだ。
ローズに対する気遣いは、この心理によるものである。


もちろん、これを計算ずくでやっているわけではない。
無意識に一番安心できる方向に向いているだけで
言わば、心の防衛本能のようなものである。

アッシュの必死の心の攻防とはうらはらに
ローズはそれを、アッシュの “成長” と解釈していた。
アッシュの背中に、冷たい汗が大量に流れているのに
ローズもアッシュ本人も気付いてはいなかった。


「あいつが鋏と共に落ちちゃった。 急いで取りに下りないと。」
ローズとアッシュが階段を駆け下りると
そこには別の男が立っていた。

武器なしはマズったね。
焦るローズの背後で、アッシュが悲鳴を上げながら階段に戻った。
あ! バカ! あたしから離れるなんて!
慌てるローズを尻目に、敵の目はアッシュだけに注がれていた。

階段の半分を上ったところで、アッシュは突然振り向き
足元に転がっているものを手当たり次第に敵に投げ始めた。

これが功を奏しているのは、アッシュの投法が優れているからである。
斜め上から振り下ろす腕からは、硬い物体が猛スピードで
それも確実に敵の体の中心部に飛んでくる。
ローズが落ちた男から大鋏を取り戻すだけの時間は稼ぐ事が出来た。


敵がうずくまる瞬間に、アッシュは目を逸らしはしたが
ローズの元に駆け寄って訊いた。
「敵って男性だけなんですかー?」

いや、そんな事はない。
多分あたしが護衛だから、腕の立つのが来てるんだろう
ローズがそう説明すると、アッシュは首をかしげた。
「相手が弱いだけなんじゃあー?」

あんたの攻撃力が計算違いだっただけで
見た感じ、どいつもそこそこいってたと思うがね。
行きがけの敵は、知ってるヤツだったからわかるけど
カウントダウンを無視しないと、本当に危なかったんだよね。
ローズはそう思い起こしながら、アッシュに訊いた。

「あんた野球かなんかやってたのかい?」
「いいえー、私、運動神経も良いんですよー。 球技は得意ですしー。」
アッシュの思い上がった言葉にも反感はなかった。
実際にあの投げ方は、運動神経の良さを表わしている。

明日から来る敵は、アッシュに対しての認識を変えて手強いだろうね。
密かに危惧するローズに、アッシュが追い討ちをかけた。
「ローズさんー、武器は複数身に付けるのが基本ですよー。」


続く。


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      ジャンル・やかた 14 09.10.7

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ジャンル・やかた 14

体が重くて、アッシュは中々ベッドから起き上がれずにいた。
 
夕べは睡眠導入剤だけじゃ眠れなくて、安定剤も飲んだしなあ
そんな薬の飲み方をしたら、すっげー体がダルいんだよなー。
アッシュはそう判断したが、心身ともに疲れているのが原因だった。

兄ちゃん、お酒に逃げていたんかもな。
ああー、酒飲みの気持ちがちょっとわかる気がするー。
戦いのストレスは、アッシュの想像以上に大きく
無意識にそれを認める考えをしていた。

アッシュは飲酒はしないが、薬に逃げるタイプである。
薬好きで、専用のポーチを持ち歩いている。
だがアッシュはオーバードースは決してしない。
薬は気合いで効かせるもの、適量で効かなければすっぱり諦める
それがアッシュの信念だった。

アッシュは全体的に、“信念の人” であるが
それが自分を追い詰める作用をする事も、多々あったのは悲劇である。
いや、本当の悲劇はこれから始まろうとしているのだ。


今日はこっちの4階と2階に行かなければ・・・
重い体を起こして、アッシュは顔を洗いに向かった。

考えに考えて出したやり方は、結局各階を巡る、という
ごく普通の方法であった。

地下の設備に近い場所に、本拠地を構えるのが普通だと思うんだが
ペントハウスってのは最上階にあるもので
VIPはそういうとこに住まないか?
あるいはそんな推理を見越して、中途半端な階に据えるかも知れない。

考えれば考えるほど、“もしも” のワナにハマっていくので
短気を起こして、シラミ潰しの方法を選んでしまったのは
過去の相続者と同じ道をたどっているという事に
アッシュは気付いていない。
正直、アッシュはアホウであった。


北側4階の部屋のドアを開けて良いか、ローズに訊ねて
南側と同様に断られ、そこが居住区だと確認できたアッシュは
娯楽室だけを覗き、2階に向かおうと提案した。

娯楽室にいた2人の男性の目付きから
皆のアッシュを見る目が変化している事を知ったローズはさえぎった。
「ちょっと待ちな。 2階に行く前に私の部屋に寄ろう。」


ローズはアッシュをソファーに座らせて、寝室の棚を漁った。
「これしかないけど、とりあえず持っときな。」
手渡されたものを見て、アッシュは喜んだ。
「すっげー、これ鉄板ガード入りじゃないですかー。
 ハードグローブってやつでしょー?」

「あんた、妙に詳しそうだね。」
ローズが呆れ気味に言うと、アッシュがムッとした。
「一般常識ですよー、これ、スワットの標準装備なんですよー?」
「・・・知らないよ、そんな事・・・。」

ローズのつぶやきを意に介さずに、そそくさとグローブをはめ
手を振り回しながらアッシュが言った。
「うわ、鉄板って重いですねー。 私の筋力じゃ無理かもー。
 パンチのスピードがまったく出ないー。
 ま、ヌルいパンチだから重みが出た方が良いのかもだけどー。」

数回素振りをしただけで
「ああ・・・、もう腕が上がらないかもー。」
と、ソファーに倒れ込むアッシュに、情けなさを感じるローズであった。


2階に下りて行き、ドアを開けて良いか訪ねた時の
気をつけな、の返事に、来るべき時が来た、と
アッシュは心臓がドクンと鳴ったのを感じた。

手が震えて、ドアレバーを上手く掴めない。
ローズが見かねて、手を添えてドアをそっと開けた。

部屋の中央に小さい影が見えた。
それは手に包丁を持った子供の姿だった。
アッシュがフリーズする間もなく、ローズが部屋に駆け込み
それがどういう展開を意味するのか、理解したアッシュは
とっさに部屋の前から離れた。


物音がして、出てきたローズにアッシュは非難の目を向けた。
ローズはわかっていたかのように、それを見るでもなく怒鳴った。

「よく聞きな、しょうがないんだよ、敵である限り!
 子供が一番恐いんだよ、わかるかい?
 天使のような表情で同情を誘って、ブッスリだ。
 あいつらは小さな体でどこにでも潜める。
 テーブルの下に隠れて、膝の裏を斬られるかも知れないんだよ。
 やらなきゃ、こっちがやられる。
 現実は理想とはまったく違うんだよ!」

それでもアッシュの表情は変わらなかった。
ローズは溜め息を付いて、語りかけるように続けた。
「殺しちゃいないよ。
 殺す必要はないんだ。
 そりゃ運が悪けりゃ死ぬかも知れないけど
 その時に戦闘続行不能にすれば良いんだよ。
 今までの戦いだって、死んだのは最初の男だけなんだよ。」


アッシュは無言でローズを見つめていたが
自分にローズを非難する資格はない事は、よくわかっていた。
だったら自分のこの態度は、ローズにとって酷い行いである。

そこまでわかっていても、どっかに何かが引っ掛かっていて
それがアッシュの心臓を締め付けているのだ。

無抵抗で死ぬ・・・・・?

以前にローズが怒った時に言った言葉が、アッシュの脳裏に浮かんだ。
果たしてその決断が出来るのか、迷っていた。


その時に横で動く影が見えた。
ローズとアッシュが、同時にその方向を見た。

少女が立っていた。
服装も髪型も、アンティックドールのようだったが
何故か全身が茶色い粉にまみれている。

アッシュを視認した少女が、突然、耳障りな金切り声を上げた。
反射的にアッシュは、少女を蹴り上げていた。

最初に “何故?” と自分に訊いた。
体が勝手に動いてしまったのだ。
生きてる・・・よね?
でもそれを確認できない。
少女の存在自体が恐いのである。


さもわかった風に、モラルだの思いやりだの言ってても
結局それは安全圏の中でしか保てない、もろい道徳だったんだ。
風が吹いたら舞うような、軽い倫理観、軽い価値観、軽い考え
軽い軽い人生だったんだ。
それを、さぞ必死に生きてきたつもりになって・・・。

自分の身が危ないとなると、手の平を返して本性を出す。
私の本性って、こんなんだったんか?
何よりも、まず自分 だったんか?


すべてが覆ってしまい、自分の何もかもが薄汚いものに思えてきて
どうしたら良いのかわからず、指1本すら動かせないアッシュの
尋常ならぬ様子に、ローズはこう訊くしかなかった。
「大丈夫かい?」

むろん反応はないが、アッシュの葛藤はわかる。
多分こいつは、弱い者に暴力を振るった自分が信じられないんだろう。
でも、このままここにいたら危ない。


「ほら、部屋に着いたよ!」
そう叫ぶローズに、頬をバシバシはたかれて、アッシュは我に返った。

いきなり自分の部屋にいるのが、わからなかったが
フラフラとバッグのところに行き
震える手で、ポーチのチャックを開けようとした。

「何だい? これを開けるんかい?」
ローズがポーチを取り、開けて渡すと
アッシュはその中身を全部床にバラまいた。
それは大量の薬で、震える手でかき混ぜるアッシュの姿は
まるで薬物中毒者のように見えた。

見つけた薬を持つ手は大きく震えていて、とても役目を果たせそうにない。
「これを飲みたいのかい?」
ローズは1錠アッシュの手に握らせ、水を持ってきた。
「ほら、飲みな。」
アッシュの口に錠剤を入れ、水を飲ませる。


床に座り込んで、呆然としているアッシュに
まるでジャンキーだね・・・、そう思っても怯まなかったのは
ローズにも選択肢が残っていないからであるが
何より、アッシュを信じたいからなのが大きい。

ローズは自らここに来て、ここで生きてきた。
ここを否定される事は、自分を否定されるのも同然である。
アッシュはそんな “ここ” に、馴染もうとしていた。
それはローズ自身に同化しようとしているように思える。

他の相続者にも、その傾向はあったのだが
やはり、“知らずに来た” というのが、評価の底上げをしていた。
その気もなく来たのに、中々出来ないよ・・・。


座り込んでいたアッシュの目が動き、フウーと溜め息を付いた。
「・・・30分経ちましたー。
 薬が効いてきたようで、ちょっと落ち着きましたー。」

はあ????? 何だ、そりゃあ?
ローズは顎が外れそうに、あんぐりと口を開けた。
「薬って、大抵30分ぐらいで効くんですよー。
 これ、軽い安定剤なんですけどー。」

ないないないない、それはない!
と、ローズは否定したかったが、思いとどまる。
聞いた事がある。 自己暗示・・・。
それがこいつの乗り越え方なんだ、と気付いたからである。

こいつの精神力の源は、自己暗示の強さなのだ。
きっと薬はその道具でしかない。
たった1錠で、それも30分で、あんだけの放心を取り戻すなど
どんなに強い薬でも不可能だ。

何というか、珍しい対処法だね。
この奇行も、アッシュが “普通” じゃない証しで
普通の能力じゃないアッシュは、主として大きな可能性を秘めている。
こいつはまだまだだけど、主にふさわしいかも知れないね。

ローズがここまでアッシュを擁護するのは
アッシュというカギを否定するのは
自分の未来をも潰す事になるからだ、という無意識の防御であった。


「とにかく、もう今日はお休み。」
「はい・・・。」
アッシュの様子を見て、安心したローズは部屋を出て行った。

アッシュはそのまま布団に入った。
部屋着、外出着、とはっきり分けないと落ち着かない性格なので
普段なら、これはありえない事である。

もちろん眠りたくても眠れない。
頭の中で否定的な考えがグルグル回る。

アッシュの目から涙がこぼれ落ちた。
「兄ちゃんは、こうなるのがわかってたんかも
 だから何もしなかったんかも。」


うつぶせになって、ひとしきり泣いた後
床に散らばったままの薬の山のところに行き
探し当てた青い錠剤を2錠口に放り込み、水をガブガブ飲んだ。


続く。


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ジャンル・やかた 15

目覚めたのは、翌日の夕方だった。
昨日は何時に寝たのかわからなかったが
確実に1日以上、眠りこけていたらしい。
 
ズキズキと痛む頭でベッドに座っていると
ドアがわずかに開き、目が覗き込んだ。
「うわっ!」
一瞬驚いたが、すぐにローズだとわかった。


「あんた、よく寝ていたよ。 もう大丈夫かい?」
という言葉で、ローズが何度も様子を見に来てくれていた事がわかる。
そういう人を裏切れるか?
もうイヤだと言って、失望させられるか?

アッシュはベッドの上で土下座をした。
「見苦しいとこを見せて、本当に申し訳ございませんでしたー・・・。」
「いや、あんな場合はしょうがないよ。」
ローズが慰めると、アッシュが懇願した。

「でも、昨日のような事はもうイヤですー。
 それを上に伝えてくれませんかー?
 私、子供、大っっっ嫌いですけど、たとえ危険な子供でも
 暴力を加えるなど、考えたくもありませんー。 お願いしますー。」

再びお辞儀をするアッシュに、ローズは言った。
「上に言っとくよ。
 今回の事で、上も判断がついただろうしね。
 ただこれ以降は、手だれが襲ってくると思うよ。
 あたしは武器の調達をするから、あんたは今日も体を休めときな。
 飯を食って、風呂にも入って、洗濯もすれば良い。」

「では、お言葉に甘えますー。」
アッシュが入浴の用意を始めたのを見届け、ローズは部屋を出て行った。


風呂に入っても、洗濯室に行っても
アッシュの脳裏から、やられた敵の姿がうめき声が離れない。

洗濯物を乾燥までセットして、食堂に行った。
食欲がなあ・・・と、カウンター上に並んだ料理を見ると
何と、炊いたご飯がボウルに山盛りになっていた。

「ああーーーーーっ、これーーーーーーーっっっ!」
ホカホカご飯を見つけたアッシュの目に、涙が溢れてきた。
「許可が出て良かったね、嬢ちゃん。」
ニコニコして声を掛けてきたウエイトレスに
「ありがとうーーー」
と、アッシュは号泣した。

ショック続きで、涙腺が緩んでいたのもあって
単に泣きグセがついていただけだが
それが、人々の目には純粋に映っていた。
これは割とラッキータイムである。


ヒックヒック言いながら、ご飯と卵を食うアッシュに、周囲が
「大変そうだね。」「頑張るんだよ。」
と、チヤホヤと声を掛けてくれる。

周囲のこの応対の変化が不思議ではあったが
今のアッシュには、自分への強い肯定に思えた。


「そのライス、ニッポンではパンと同じと考えるらしいぜ。」
「ニッポンフードって太らないらしいね。」
「そうそう。 ニッポン人は皆痩せてるんだって。」
「美味しくて健康にも良いらしいよ。」

あちこちのテーブルで、ご飯を試しながら盛り上がっている。
「食べてみたいねー、ニッポンフード。」
「街じゃ高級レストランでしか食えないしね。」
「嬢ちゃん、料理人に食べやすいニッポンフードをリクエストしてくれよ。」
この食堂が和気藹々とするのは、珍しい事であった。

「皆ありがとうー、これからも精一杯頑張りますー。」
と、おまえは一体どこのアイドルだよ? みたいに手を振りながら
食堂を出るアッシュを、何個もの暖かい目が見送った。


部屋に戻ったアッシュの目には、力強い光が宿っていた。
私、何を悲劇ぶっていたんだろう?
人が次々に死傷するのを見た衝撃で、自分を見失ってたとしか思えない。

私は一応善人だけど、元々平和主義者ではなかったじゃないか。
何もせずに死ぬのなんて、冗談じゃない。
こっちから喜んで殺して回ってるわけじゃなし
殺しに来たのなら、殺して帰すのは当然じゃん。

兄ちゃんは安らかに眠れ。
どんなに罪悪感にさいなまれようが、死んでしまったら終わり。
私は生き残って、それを乗り越える!


アッシュは勢い付いて、かなり非道な思考を展開させていた。
確かにこの状況の自己正当化は、この類の考えしかない。
が、同時に他の部分でモヤモヤとしていた。

・・・・・・・・何か忘れてるような・・・・・・・
あっっっっっ、洗濯!

慌てて洗濯室に向かったら、食堂ではまだ日本食の話題をしていた。
「スシ、テンプラ、スキヤキ、だろ?」
「無知だね、それは観光用の “ワショク” って言うんだよ。
 ニッポン人が普段から食べているのが
 健康に良いニッポンフードなんだよ。」
「ショウユ、ミソ、アンコ、って言う調味料を使うんだろ。」

ああーーーっ、微妙に惜しい! と思いつつ
食堂の前を素通りし、洗濯物を抱えて部屋に戻った。

アッシュはこの館に来て初めて、ゆっくりと眠る事が出来た。


続く。


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ジャンル・やかた 16

珍しく朝早く起きたアッシュの目に留まったのは、テーブルの上のメモ。
どうやらローズは、アッシュが寝ている真っ最中の部屋に
自由に出入り出来る神経を会得したようである。
こんな危険な館で、気付かず爆睡してる方もどうなんやら、だが。
 
読み書きが苦手なアッシュは、最後の署名だけ見て
とりあえずローズの部屋に行けば良いや、と流した。
そしてその受け流しは、アッシュにとっては滅多にない正解だった。


ローズの部屋に行くと、見知らぬ女性がいた。
「あたしの姉のバイオラだよ。 鍛冶屋みたいなもんをやってる。」
「かかかかかかか鍛冶屋ーーーーーっ?  !!!!!」
RPG好きのアッシュの心は、狂おしくときめいた。

ソワソワと嬉しそうに握手をするアッシュ。
とまどうバイオラの耳元で、ローズが囁く。
「その動揺はわかるけど、さしたる害はないから大丈夫。」


「でね、あんたに武器を見つくろってきたんだよ。
 いやあ、大変だったよ、作るのはさあ。
 図書館で勉強をしたのは久しぶりだったよ。
 日本人という事だから、やっぱり使い慣れた武器が良いだろ?」

バイオラは布包みを開いた。
「どうだい、ザ・シュリケーーーン!」

「一体いつの時代の本をー・・・?」
アッシュは青ざめた。
しかもその手裏剣は、ブ厚い上に直径15cmぐらいあって
投げるどころか、重くて持てない。

「これ、試しに投げてみてくださいよーーー。」
アッシュにうながされバイオラが投げると、手裏剣は手を離れた途端
急降下して、30cm先の床にドスッと刺さった
「ああああああああああ、あたしのラグがーーーーー!」
ローズが悲鳴を上げた。
「こっ・・・これはアキスミンスターの骨董ものなんだよ!」

「あはは、ごめんごめん、ちょっと使いにくかったね。
 じゃあ、こっちの鎖鎌はどうだい?」
鉄球から1mほどの太い鎖が伸びていて、先には鎌が付いている。
「サムライの日本刀は知ってるけどさ
 あれを作るのには、かなりの時間が掛かると思うんだよね。
 その点、このニンジャ武器ならある材料で作れるしさ。」

バイオラなら、ツヴァイハンダーのような日本刀を作るに違いない
中腰で、直径10cmの鉄球を両手でやっと持ち上げたアッシュは
泣きそうな目でローズを見つめた。
ローズはラグの穴をさすりながら、バイオラを睨む。


バイオラは豪快に笑った。
「あはははは、冗談だよ、冗談。
 こんな重いものを戦闘で使えるわけがない。」
そう言いつつも、急に真顔になって溜め息を付いた。
「・・・持って来る時に気付いたんだがね・・・。」

「あ、あのですねー、手軽に警棒とか、ないですかー?
 アルミかなんかの軽いので、3段に伸びて
 腕に取り付けられるようなんが良いんですがー。」

「警棒ならあるけど、腕に取り付けるって?」
ローズが持ってきた警棒で、身振り手振り説明をする。
「ほら、ここに警棒付きのアームカバーをして
 腕を振ると、警棒がジャキジャキンって伸びるのー。」
「へえ、それ良いアイディアだね。
 すぐに出来そうだから、ちょっと急ぎ作ってくるよ。」

バイオラの背中に向かって、アッシュが懇願の叫びを上げた。
「軽いのをー! とにかく軽いのをーーーーーーっ!」


バイオラが部屋から走り出て行った後
ローズを睨んで、アッシュがイヤミっぽく言った。
「うちら兄妹を変人扱いするだけあって
 えらいマトモなお姉さまをお持ちでー。」
「うるさいね! あの人は武器防具になるとああなんだよ。」

「どうするんですかー? この床が抜け落ちそうな重さの鎖鎌ー。」
「持って帰らせるよ。 しかしこれ、バイオラ、よく持ってこれたよねえ。」
「怪力姉妹ですねえー。」
「・・・否定はしないけど、ちょっとムカつくね。」

「とりあえず武器待ちですかー? だったら何か食べませんー?
 私、朝食まだなんですよー。」
「スコーンやパウンドケーキ程度ならあるけど、それで良いかい?」
「わーい、そういうのが良いんですー。」

お茶の用意を一切手伝わないアッシュを
ローズはまったく気にしない。
あたしの大事なティーセットを割られたら大変だしね。

「そういや、あんた、食堂で皆に慰められたらしいね。
 良かったじゃないか。
 でも、よく思ってないヤツもいるよ、気をつけな。」
「5人に好かれりゃ5人に嫌われる、ってのが世の摂理ですもんねー。」
「・・・あんた、時々ものすごく図太いよねえ。」
「えへへー、恐れ入りますー。」
「褒めてるわけじゃないんだけどねえ。」


お茶やらケーキやらクッキーを食べながら、たわいもない話をした。
「何か、私ら、いっつもお茶してませんー?」
「あんたの国はどうだか知らないけど、この国はそういう習慣なんだよ。
 何かあれば、お茶お茶さ。」
「そういや、私の国にも茶道ってありますけど
 お茶って全世界共通の交流の儀式なんですねえー。」

どこにでもある、昼下がりのお茶会の風景だったが
そんな悠長な事をしている場合ではないのは、ふたりともわかっていた。
館攻略は、まだ1mmも進んでいないのだ。


3時間ほどで、バイオラが戻ってきた。
望み通りのアームガード付き3段警棒を持って。

アームガードは皮で作られていて、肘から手首手前までの長さ。
警棒は、その外側にベルトで固定されており
腕に固定するベルトが、更に3本付いている。

しばらく3人でその武器をいじくり回して、キャアキャアはしゃいでいた。
これも対象物が武器じゃなかったら、微笑ましい光景なのだが
この世界全体が歪んでいるので、萌えアイテムも微妙に危ない。

アッシュがアームガードを腕に巻き、言った。
「さあ、出陣しましょうー!」


続く。


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ジャンル・やかた 17

ふたりがやってきたのは、北館2階である。
 
確かにここはまだ調べていないけど
この前1戦目で逃げ帰ったのに、大丈夫かねえ。
心配するローズに、アッシュが振り返ってドアを指差す。
その目は前回とは違い、力強い光が宿っていた。

ローズがうなずくと、アッシュはドアの横の壁を背にして
左手を伸ばしてドアを静かに開けた。


部屋の中は無人であった。
アッシュは全体を見回すと、さっさと隣の部屋のドアの前に移動し
またローズの目を見て、無言でドアを指差す。

まるで別人のようだね・・・。
ローズは不思議だった。
この2日間で、何故こうまで変われるのかわからない。

ローズの目には、“変わった” と映るだろうが
ふたりが出会った瞬間に、アッシュはパニックを起こしていたので
それが正確な表現なのかは定かではなかった。


2つ目の部屋も3つ目の部屋も、人の気配はなかった。
4つ目の部屋の中に立ったアッシュは言った。
「このエリアは色んな作業をする部屋ですよねえー?
 普段は人が仕事をしているんでしょー?
 それが誰もいない、って事はー・・・」

「ここが今日のバトルエリアってこった。」
急に男性の声がしたので、アッシュは飛び上がった。
「うおっ、びっくりしたああああああ!!!!!」
あ、やっぱり変わってない・・・、とローズは思った。
それが嬉しくもあり、残念でもあるのは
ローズの方が、変わりつつあるのかも知れない。

アッシュは男を睨みながら腕を振った。
シャシャッガッと音がして、警棒が伸びた。
その様子が我ながら格好良すぎて、アッシュはついついニヤついた。


「おっ、警棒かい、マニアだね。」
「いやー、マニアってほどじゃないですよー。 えへへー。」
「俺の武器はこれだぜ。」
男が差し出した武器を見て、アッシュは驚いた。
木の棒に、直角に取っ手が付いている。

「あっ、トンファー!」
「ほお、知ってるのかい?
 カンフー映画で観て、自分で作ってみたんだ。」
「手作りですかー? えー、すっげーーーーー!
 じゃ、三節棍とか作れますー?」
「あー、あれねー。 うん、作れると思う。」
「私、中国で行われた少林寺拳法の大会をTVで観たんですけど
 三節棍使いが優勝してた記憶があるんですよねー。」
「えっ? そうなのか? 
 確かにこれ、ちょっと使いづらいし、んじゃあそっちにしてみようかな。」
「あれ、絶対に便利だと思うー。 相手との距離幅の融通も利くしー。」
「あんたのそれも面白いな。 腕にくっついてんのかい?」
「そうなんですよー、格好良くないですかー?
 こう、シャキーンと出して・・・、あれ? 引っ込まないー。」
「ああ、それ垂直に押さないと引っ込まないんだよ
 コツがいるんだ。 ちょっと貸してみい。」

「こうやって真っ直ぐコンコンと・・・」
と、男が実践し
「うわ、難しそうーーー」
と不安がるアッシュに、アームのベルトをはめてやる。
「慣れれば、すぐ引っ込められるようになるよ。」

妙になごやかな雰囲気のふたりを見て
イライラしていたローズは男に鋏の先を向けながら、怒った。
「ちょっと、あんたら、何を仲良くやってんだい。 さっさとやるよ!」
「あ、俺、やらねえ。」
「はあ?」
「やっぱ話すとダメだな。 話が合ったりすると特にな。
 俺はリタイアするよ。 嬢ちゃん頑張んな。」
「あ、あ、ちょっと待って、三節棍、作ってもらえませんかー?」
「オッケ、出来たら貸すよ。 俺は4階に住むラムズってもんだ。」
「ありがとうーーー。」


にこやかに手を振るアッシュを見ながら
怒るべきか、無視するべきか、ローズは迷っていた。
ラムズは普段から気の良いヤツで、ローズも戦いたくはなかったので
結果としては良かったのだが、それは運が良かっただけ。
あのように、すぐに無防備になられたら困る。

迷ったあげくにローズの口から出た言葉は、自分でも意外だった。
「嬢ちゃん?」
そうなんですよー! と、アッシュはエキサイトした。

「東洋人が若く見られるのは話には聞いてたけど
 まさか、ここまでとは思いませんでしたよー。
 そりゃ私は日本人同士でも若く見られてたけどー。」
 
天狗になろうとしているアッシュの鼻を、ローズはさっさとへし折った。
「ふん、人前でビービー泣くから、ガキだと思われてんだよ!」
「あっ・・・、そうだったんですかー・・・。」

見るからにガックリきているアッシュの、うつむいた横顔に
すぐ顔に出すのがガキの証拠なんだよ、と思ったが
ここで落ち込まれると、また面倒なので
何か良い慰めの言葉でもないか、と捜していると
アッシュがローズの顔を見て言った。

「ローズさん、私、褒められて伸びるタイプなんですー。
 と言うか、褒められないと絶対に伸びないタイプなんですー。
 ウソへったくろでも良いから、とにかく褒めといてくださいー。」

これはジャパニーズジョークなのか? と、一瞬疑ったが
アッシュの真っ直ぐな瞳に、心の底から真面目に言ってると気付き
激しい動揺を隠すがごとく、こぶしでアッシュの脳天をゴツンと叩いた。


ローズの鉄拳は、結構痛いものがあったが
大人しく後ろを付いて行ったのは
部屋を出るローズの背中が、怒りに燃えていたからである。

うちの親戚連中もこんなやってすぐ怒るしなあ
アッシュは、自分の言動がある種の人間にとって
ガラスに爪を立てる行為と似たようなものだとは気付いていなかった。

その、“ある種の人間” とは
アッシュを心配してくれる人々である事も。


続く。


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ジャンル・やかた 18

「さあ、ローズさんからものすごーーーく褒められて
 やる気が出たんで、ちゃっちゃと行きましょかねー。」
 
アッシュがイヤミっぽく冗談を言いつつ、廊下を歩いて行く。
ドアのひとつひとつをへっぴり腰で覗いていた時とは大違いである。
ほんの一日二日で・・・。 この変化は進歩なんだろうか?

アッシュの変わりようを、“成長” と喜びつつも
初めて出会ったようなこの人物を、どうしてもいぶかしんでしまうローズ。


「ちょっ、あんた、そんなにスタスタ行くと」
危ない、と言おうとしたその瞬間、案の定ドアが勢い良く開いた。
走り出て来た人影は、アッシュに向かって叫んだ。

「あたしが殺ってや」 ジャキッゴスッ
アッシュが素早く警棒を出し、女の首筋に振り下ろした。
先日のローズのように。

よろける女性に鋏を突き刺すローズの背後で、アッシュが騒いだ。
「いっっってええええええええええええええええ!
 ほんとに痛ええええええええええええええええええええ!」

警棒をはめた右腕を抱えながら、うずくまるアッシュ。
「警棒がね、こう、ね、骨に、ゴリッと、痛みがね、うううーーーーー」

ああああ・・・、もう本当に始末に終えないヤツだね
冷ややかな目ながらも、アッシュの警棒を外してあげるローズ。
「殴るのも殴られるのも、同じに痛いんだよ。」


そうだよね、人を本気で殴るなど、一生経験しない人も多いもんね
武器で殴っても、こんなに痛みが伝わってくるんだ・・・
映画なんか、平気で殴り合いしてるけど
あんなん、よっぽど鍛えてないと無理なんじゃん。

しばらくのたうち回っていたアッシュだったが
フラフラと立ち上がり、涙に濡れた瞳でローズを見つめた。
「ローズさん、1発で何なんですけど、私やっぱり戦闘ムリですー。
 すっげー痛いですー。
 骨にヒビぐらい入っとるかも知れませんー。
 よって、今後のバトルは全逃げに徹しますー。
 つまり、あとよろー、って事ですー。 良いですかー?」

「えらいあっさりと諦めるのもどうかとは思うんだけど
 その方があたしもやりやすいし、それで良いよ。」
「お互いに得意分野で勝負しましょう、って話ですよねー。」

あんたに得意分野ってあるんかい、と、ここで突っ込めば
アッシュの良いカモになれたんだが
ローズはアッシュの軽口はとことん無視に回っていた。
その態度は結構、正解だった。
アッシュをそれ以上、見下す事態にならないで済むからである。

「じゃ、この階をグルッと一周お願いしますー。
 私は後ろから付いて行きますんで。
 あ、ドア全部開けつつ、どうかなにとぞー。」

イラッとしながら歩き出したローズの背中に
倒れている女を見ないよう、アッシュがぴったりと張り付く。
「うっとうしいねえ、もちっと離れな。」
へへ、とアッシュが笑った。


可愛いと思えなくもないんだけど、何だろね、このカンに障る感じは。
その突拍子もない言動で、得体が知れない印象を与えるアッシュだが
ローズの感じる違和感は、アッシュの持つ闇を敏感に察知していた。
ローズは正に、常に生き残れる兵士の感覚を備えていたのである。


続く。


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ジャンル・やかた 19

昨日は、やたら敵が多かったよなあ。
あんなん続くんなら、ほんと死ぬぜ。
 
あの後、北館2階を一周したのだが、敵が3回も出没したのである。
宣言通り、アッシュはキャーキャー言って逃げ回り
ローズがひとりで戦って、無事に生還できたわけだ。

ローズさん、すげえつえー。
ローズが守護者になった自分は、激しく運が良かった事に気付いた。

どんなに横柄でも、あんだけ強けりゃオッケーだよね。
問題は私の方なんだよねー、足手まといになってるだけでさー。
平安京エイリアンだって、時間が経つと敵大量投入されるし
こんなんじゃ、マジで寿命カウントダウン始まっちゃってるよー。

結果が出せないと、どんどんマイナス思考になっていく。
今日、何をすれば良いのかも思いつかず、体が動かない。


その時、ベッドに寝転んでいたアッシュの目に
ふと足元側に積み上げられている雑誌や本の山が映った。

書籍類は床に直置きされていて、それが1mぐらいの高さになっている。
中学ん時、布団の足元に本棚を置いといたら
それが寝てる時に倒れてきたんだよなあ。
冬で布団の重ね掛けをしてたから、ケガこそなかったものの
あれはスーパービックリ アーンド激痛だったよなあ。
これ、よく倒れないよな、危ないよなあ。

書籍の山をボンヤリ見上げていた目を、ふと下ろした瞬間
見覚えのある背表紙が目に飛び込んできた。

「レ、ペ・・・ペ・・・ペチット プ・・・プリンス!」

この読み方、絶対に違うと思うけど、これ、“星の王子さま” だよね?
この本、私が子供の頃読んで、何か知らんが悲しくて悲しくて泣いて
何でこんな内容で泣くの? 頭がおかしいんじゃない? って
家族全員にバカにされて笑われた本じゃん。
あの当時の私は、ほんとわけわからん心の機微を持ってたよなあ。

じゃなくて!
この本、ここに寝転ばないと気付かないんじゃねえ?
しかも (イヤな) 思い出の本。
これは次に必ず来るであろう私に兄が残したものじゃねえ?
うわ、よりによって何でこの本をーーー、じゃなくて!

そうか、これがあるからローズさんに私の護衛を頼んだんだ。
このフロアにローズさんの部屋がある限り
次の私も絶対にこの部屋を割り当てられるから。
すげえぜ、兄貴、やっぱり考えてたんじゃん!


アッシュは力任せに、本を山から引き抜こうとした。
そんなザツな事をしたら、ザツな結果になるわけで
本は将棋崩しの駒のように崩れ落ち、アッシュに降り注いだ。

本のカドが当たると、とても痛い。 雑誌でもとても痛い。
しかもそれの連続攻撃に、アッシュは兄を目一杯恨んだ。

アッシュの真の敗因は、将棋崩しとか、砂山の棒倒しとか
そういう慎重な動作を要求されるゲームは
大の苦手で、勝ち知らずなところにあったのに。 じゃなくて!


“激痛にのたうち回る”
アッシュの人生では幾度となく繰り返される光景だ。
昨日の警棒の跡も、ひどく腫れている。

あーもう、いっつもいつも!
いい加減、学習してくれよ、私の衝動はよー!!!
書籍類を積み重ねたヤツのせいにしないところは、割と正義。

痛みが治まると、アッシュは散らばった本を片付け始めた。
おいおい、それよりさっさと肝心の本を見た方が良いんじゃないのか?
と突っ込みたくなるが、アッシュの性格はこうなのだ。


サイズに合わせて、積み直された本を満足気に見たのち
ようやくアッシュは、問題の本をめくった。

・・・中、全部英語・・・。
イヤミなとこがある兄貴だったもんなあ。
はあ・・・と落胆しながらも、メモなどがないか
パラパラとページをめくる。

と、途中のページに写真が挟まっている。
セピア色になった古い白黒写真である。


写真は、野原に建つ1軒の館だった。
これ、この館・・・?
でも何か違うような・・・???

写真の裏を見ると、歴史と伝統 と万年筆で書いてある。
その極太の線は、兄が好んで使用していた万年筆で
特徴のある字体も、間違いなく兄の筆跡である。

ああ、やっぱり、この本は兄貴セッティングだー!!!
アッシュの心臓がドクンと一度高鳴り
頭のてっぺんに体中の何かが集まる感覚がして、涙が出そうになった。

色々と言葉が脳裏をよぎったが、それを確認すると
感情が爆発して崩れ落ちそうになるので
あえて無視をし、冷静に分析をする事を選ぶ。

が、アッシュは頭を抱えた。


続く。


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ジャンル・やかた 20

よく推理小説なんかで、ダイイングメッセージとかあるけど
何でわざわざわかりにくくするんやら。
兄の残した1枚の写真を眺めながら、アッシュはイラ立っていた。
 
答、それは明らかにわかりやすいと、証拠隠滅されるからでーす。
って言うけど、現実問題、わかりにくいなら意味なくね?


気を取り直して、アッシュは推理に入った。
何で写真の裏に日本語で書き残したか?
私に宛ててだからだろうけど、そんなヒント、見つかったら没収だよね。
と言う事は、やっぱりこの写真自体が、重要なヒントなんだ。
裏に何を書き残そうが、即没収クラスの。

でも、そしたら詳しく書いても良いはず。
うーん、ギリオッケーみたいなライン?

アッシュは改めて写真の館を見つめた。
これ、この館に似てるけど違う建物だよね。
この写真の館は、2階建てだし小さい。
あっ、もしや、敷地内に別建物があって、そこに主がいる?


うわあーーーーー、それは反則だろーーーーーーーー。
アッシュはバッタリとベッドに倒れこんだ。
しかし、頭の中ではグルグルと考えが渦を巻いている。

・・・・・・・・・もしかして、こっから見えない角度に
この写真の建物があって、通路で繋がってるとか?
だったら、それがあるのは北側じゃないよね?
死角の南側で、南館のどっかから行けるんじゃないの?
それじゃあ、北館に滞在すると激しく不利になるんだけど・・・。

でも、この言葉はどういう意味?
歴史と伝統
確かにここらへんの人、重要視してるよね、歴史と伝統。
で、それが何なんだ?


うーん、答、出ないっぽいー。
とりあえず今日からは南に集中するか。
考えようによっちゃ、候補が半分に絞られたわけだし
お兄ちゃんありがとう、だよ。

でも私なら、もちっとわかりやすく残すけどね、ふん。
アッシュは、よっこらしょ、と起き上がった。


探すべきは、南館の1F、2F、5F、6F
の、一番南側の壁及び部屋。

「ローズさん、明日は南館の2Fにレッツゴーですわよーーー!」
アッシュはローズの部屋のドアを勢いよく開けて叫んだ。
日本人にはノックの習性はない。 ふすま、紙だし。


数時間後、ベッドに突っ伏したアッシュは溜め息を付いた。

今日の南館2階は、敵の出が激しかった。
そのせいで奥まで行かない内に、ローズの鋏が壊れ
不本意でも、引き返さざるを得なかった。
それも、かなりの危機一髪で。


あんだけ敵が出るってのは、本丸に近いって証拠のようなもんだよな。
もう一度、南館の2階の残りに行かなければ。
鋏の修理は、バイオラが張り切っていたし
もし何とかいう兄ちゃんが三節棍を持ってきたら
バトルマスター・ローズに使いこなしてもらおう。

アッシュは人の名前と顔を、まったく覚えられないので注釈するが
“何とかいう兄ちゃん” とは、ラムズの事である。

アッシュは、あまりの疲労にそのままベッドで爆睡した。


続く。


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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

ジャンル・やかた 21

目が覚めた時は、もう昼だった。
着の身着のままで寝ていた自分に、激しく驚いた。
普段のアッシュなら、どんなに疲れていても絶対にしない
いや、出来ない行為である。
着替えずに寝るなど、気持ち悪くて逆に眠れない。
それがここ数日で、2度もやっているのである。
 
ああ・・・、何か私の中で色々と芽生えてる気がする・・・。
いつもの型通りの自分の殻を打ち破った気分になり
ちょっと嬉しかったりするが、とりあえず風呂に駆け込んだ。


お手入れしまくって、クリーム塗りたくりの
ツヤツヤを通り越してテラテラの顔で、アッシュは食堂にいた。
夕食に近い時間の朝食なので、結構混んでいるのに
アッシュの周りだけ空間が出来ていた。

ここではいつもこんな調子で、遠巻きにされているのだが
それをアッシュ自身が好んでいた。

覇者は孤高でないと!
そう思いつつ、ボロボロ食いこぼしているアッシュの前に
若い女性がツカツカと一直線に歩み寄ってきた。


「・・・が死んだわ。」
え? 誰? と、肝心な部分を聞き逃した間の悪いアッシュは
目を丸くして、女性の顔を見つめたまま固まった。

「あんたのせいよ、この人殺し!!!」
その言葉を聞き、戦った相手の中にこの女性の親しい誰かがいて
その人がその傷が元で死んだのだ、とアッシュは悟った。

女性は涙をボロボロこぼしながら、悲鳴に近い声を上げた。
「相続者なんて言っても、結局人殺しじゃないの!
 人を殺してまで、この館が欲しいの? この人殺し!!!」


女性の語尾が響くような凍った景色のごとく静まり返った中で
しばらく女性を凝視していたアッシュが、ゆっくりと立ち上がった。

アッシュが低音で話し始めた。
「まずは、お知り合いのご冥福をお祈り申し上げますー。」
女性がカッと顔を赤らめて、怒鳴った。
「だったら何故こんな」

その声をさえぎる大声で、アッシュは続けた。
「この度は! 本当に! 残念な事だと思いますー!」

そこまで言うと、また声を抑えて語るように話し始めた。
「私にとっても今起こっている出来事は、非常に不本意ですー。
 あなたと同じように、私もまた “何故こんな” と思っていますー。
 本当に戦いたくなどありませんー。
 だけど、ひとつだけ言える事がありますー。
 私は自分を守るために、襲ってくる人には今後も立ち向かいますー。
 そして私の大切な人も、何をしても守りますー。」

アッシュは、周囲を見回しひとりひとりの顔を見つめた。
「あなたは私を襲ってきますかー? それとも助けてくれますかー?
 もし助けてくれるのなら、あなたは私の大切な人になりますー。
 私もこの命を投げ出してでも守りますー。」


どうですか? と、確認するかのように人々の目を見る。
誰ひとり口を開く者はいず、身動きひとつ取れない雰囲気が漂う。

「そして、もし私が相続できたとしたら
 もう二度とこんな残酷な方法は取りませんー。
 この館の住人全員が、私の大切な人になるからですー。
 大切な人を、もう失いたくはありませんー。
 もう二度と彼女のような “被害者” も出したくないのですー。」

あなたも同じ気持ちだと思います、と
泣き続ける女性を見つめて、アッシュは言った。

「本当に申し訳ありませんでしたー。
 心からお悔やみを申し上げますー。」
深々と一礼した後、女性の反応も確かめずアッシュは食堂を出た。
立ち去るときに、集まってきた群衆の中にローズを見つけたけど
一瞥しただけで、無言ですれ違った。


言いたい事を上手く言えなかっただけじゃなく
焦って妙な約束まで持ち出した自分が腹立たしく
自分の部屋へと、足早に歩き続けた。

食堂の中がまだ静まり返っているのを、背後で感じながら。


続く。


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ジャンル・やかた 22

アッシュはベッドの中で、天井を見つめていた。
 
はあ・・・えらいな大口を叩いてしもうたが、どうすんだよ?
守るとか戦いをやめるとか、一民間人に出来るわけがねえじゃん
相続したら、マジどうすんだよ?
つーか、相続できるかどうかもわからんわけじゃん
今日殺されるかも知れないんだし
相続後の事は、相続できてからで良いんじゃね?
まずは生き残る事を重点に考えるべきだろ
でも相続してからどうするか考えても遅くね?
反乱されて即死とかシャレにならんわけだし
今からでもボチボチ考えておいた方が良くね?
てか、今まさに命の危機なんだから
他の事に気を取られてる場合じゃなくね?
ああー、ほんと何であんなデカい口を叩いたんだか
こっちはしたくてしてるわけじゃないってのに
人殺し人殺し連呼されて、すんげームカついたんだよな
こういうのを墓穴を掘るっちゅーんだよー
でも、だったらどうすれば良かったわけ?
すいませんすいませんなわけ?
襲ってくる方が悪くね? あの女の人も八つ当たりじゃね?
でも親しい人が殺されたら、そりゃ怒るわな
気持ちはわかるし
でも戦争ってそういうもんじゃね?
そういうのも覚悟して参加すべきじゃん
てか、私、参加したくてしてるわけじゃねえし
だったら、さっさと殺されれば、戦闘は終わるわけじゃん
何でそんなんで私が死なにゃならんのだよ?
てか、私が死んでも次の相続者が来るわけじゃん
だったら、とっとと相続して、戦うシステムをなくせば良いんじゃん
だからそのシステムとか、どうすんだよ、って話じゃん


アッシュは、勢いに任せて振るった熱弁を、早々に悔いたせいで
てか、でも、だって、と思考を空転させまくって
一睡も出来ずに、一晩中悶々としていたのである。

しかも食堂の方では、夜遅くまでザワついていた。
自分が言った事に住人たちが反応してるんじゃないか、と思うと
恐ろしくて、部屋の外に出る気になれない。

ああ・・・何であんな事を言っちゃったんだろーーー
アッシュは布団をかぶって、ジタバタもだえ苦しんだ。


アッシュの想像通り、住人たちの話題はあの事一色だった。
アッシュが出て行った後の食堂は、しばらく静まり返っていた。
最初に口を開いたのは、ローズであった。

「あんたの彼氏を殺したのはあたしだよ、アッシュじゃない。
 恨むんなら、あたしを恨みな。
 だけどね、戦うヤツらは皆、覚悟してやってんだよ。
 自分で決めてやってるんだよ、強制じゃない。
 ま、あんたの気持ちもわかるから
 カタキをとりたいんなら、いつでも受けて立つよ。」

ローズは立ちすくむ人々を前に、堂々と声を張り上げた。
「来たいヤツは来ればいいさ。 返り討ちにしてやるよ!
 それがあたしの役目なんだ。」


再び沈黙の時間が流れた。
次に口を開いたのは、屈強そうな男だった。
「そうさ。 それが俺たちの役目だろう。
 恨まれるなんて、筋違いじゃねえか?」
それが開始の合図であるかのように、人々から次々に言葉がこぼれる。
「でもやっぱり知り合いが死ぬのは気分の良いもんじゃないだろ。」
「自分で決めたんだろ。」
「死ぬつもりでやってるわけじゃねえよ。」
「死ぬ可能性が充分にあると普通わかるだろう
 そんな事も考えずにやってるなんて、おまえバカか?」
「何だと、この野郎!」
「やるんかよ、このクソ野郎が!」

つかみ合いが始まり場が騒然となった時に、甲高い女性の声が響いた。
「でも!」
声の主は、まだ10代らしき可愛い女の子だった。
「でも、あの人は皆を守る、って言ってました。
 戦わなくて済むようにする、って。」

「そんなの出来るわけがないだろ。」
中年女性が失笑しながら、吐き捨てるように言った。
「まったくガキは夢見がちで目出度いさね。
 ここはずーーーっと、こういうしきたりなんだよ。
 ずーーーーーっと、そうやってやってきたんだ。
 それを変えるなんて、何も知らないよそ者のたわごとさね。」

「そうじゃ。 ここはずっとそれでやってきた。」
老人が部屋の中央に進み出た。
「主は全員よそ者じゃったのに、変えるなんて言ったヤツはおらんよ。」

老人のその言葉は、賛同とも批判とも取れるので
全員が次の言葉が見つからず、黙りこくってしまった。
食堂の中はおろか、廊下にまで人が溢れていた。
騒ぎを聞きつけて、南館からも住人が集まってきていたのだ。


続く。


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ジャンル・やかた 23

どおしって お腹って減るんだっろー
 
布団の中でブツブツと歌うアッシュ。
真剣に悩んでいたり、悲しんでいたりする時に
空腹になると、とても情けなくなる。

ちゃんと寝て目覚めた朝は、食欲がなくて困るのに
悩んで眠れない夜など、明け方ぐらいから腹が減ってたまらなくなる。
こんな時の油っこい麺類や駄菓子ほど美味いものはない。
あーーーっっっ、チャンポン食いてえー、亀せんべえ食いてえー
アッシュの悩みは、ここにコンビニがない苦悩へと変わっていた。


布団の端をガジガジ噛んでいると、ドアがゆっくり開いた。
ローズがソッと顔を覗かせる。

こいつは私にノックせえせえ言うくせに、自分は覗きまくりかよ
アッシュが凝視してると、ローズはニカッと笑った。
「あんた、夕べ寝てないだろ、腹が減ってるんじゃないかい?」

「やったーーー!!! ご飯ーーーーーーー!!!」
アッシュが喜び勇んで飛び起きると
ローズが大威張りでトレイを差し出した。

トレイの上には、コーヒーとサンドイッチが乗っていて
それを見て、チッという顔をしたアッシュに、ローズが怒った。
「文句があるなら食わなくて良いよ!」
「とんでもない、とてもありがたいですーーー、感謝ですー。」
しょせんバテレン人には、日本人の心のふるさと、おにぎりなどという
芸当は無理っちゅう話だよな
へっへっへと、腰を低くご機嫌取りをしつつも
性根は腐りきっているアッシュであった。


廊下に出ながら、ローズが微笑んで言った。
「何も心配はいらないよ。
 夕べの事は、あたしがちゃんとカタを付けておいたからさ。」
それを聞いて、アッシュは忘れていた不安に再び駆られた。
ああ・・・、私がテキトーに掘った墓穴を
こいつが丁寧に整備している気がする・・・。

「んじゃ、あたしはバイオラのとこに行ってくるよ。
 鋏の修理がまだだから、何か調達してこないとね。」
「あの男の人のコレクションの武器を借りたらどうですか?」
「男?」
「ほら、トンファーを持った・・・」
「ああ、ラムズね。
 何でラムズが武器コレクションをしてるって知ってるんだい?」
「私がこの状況ならするからです。」
「・・・なるほど・・・。」


「とにかく、あたしが戻ってくるまで出掛けたらダメだよ。」
ローズが念押しをしている時に、よそ見をしていたアッシュが叫んだ。
『うおっっっ! ジー!!!』

「何だい?」
ローズが身構えて振り向く。
アッシュの視線の先には、黒光りする物体がいた。
「何だ、ゴキブリかい。」

ゴキブリがササッとゴミの山に入っていく。
それを見たアッシュが、そのゴミを掻き分け始めた。
「ちょっ、あんた、そこまでして退治しても
 ここには山ほどゴキブリがいるんだよ、キリがないだろ、放っときな。」

ゴミを四方八方に撒き散らしながら、アッシュが叫んだ。
「ローズさん、今私が叫んだ言葉がわかりましたかー?」
「へ?」
「私、何て叫びましたー?」
「・・・さあ? そういや何か言ったね。」

「私はとっさに日本語で叫んじゃったんですよー、それも隠語でー。
 日本語では、ゴキブリの呼び方はGOKIBURIなんですー。
 もう、その単語を使いたくないほど嫌いなんで
 頭文字のGで、『ジー』 って言ってるんですー。」
「へえー、で、そんだけ嫌いなのに何で探すんだい?」

「あなた、わからなかったでしょー? 私の日本語ー。
 ゴキブリにも、わからなかったんですよー。」
「普通、虫には人間の言葉はわからないだろうねえ・・・。」
ローズが呆れたように答えると、アッシュが振り向いて言った。

「ところが、この虫にはわかったんですよー。 英語がー。
 あなたの “ゴキブリ” の言葉だけに反応したでしょー?」
「それは考えすぎじゃ・・・?」
「考えすぎなら考えすぎで良いんですー。
 こんな汚屋敷で、いつでもどこでも一番自然に存在できるのは
 ゴキブリとかネズミですからねー。
 哺乳類より昆虫の方が本物っぽく作れるでしょー?」

「何を言ってるんだい?」
「盗聴ですよー。」
ローズがその言葉を聞いて、笑い始めた。
「007の話じゃあるまいしーーー、あっはっはっは」
「あんなおとぎ話と一緒にしないでくださいー。
 私はアキハバラの国の出身なんですよー?
 他国の軍関係者が兵器の部品を買いに来るとこですよー?
 店頭で誘導システムの部品が売られてるんですよー?」

それを聞いて、ローズが真顔になった。
「日本って、そんな国だったんかい?」
「そうですよー! 今じゃ民家に盗聴器や盗撮機械が仕掛けられてて
 住民は一家に1個八木アンテナが必須ですよー。」


アッシュはムチャクチャ言ってるが
ローズはそれを真に受けて、考え込んだ。
確かに相続者の詳しい動向を、主が知る術はないんだよね。
護衛に告げ口の義務はないんだからさ。

「あっっっ!!!!!!!!!」
いきなりのアッシュの絶叫に、ローズの心臓が止まりそうになった。
「何? 何があったんだい?」
「壁紙が剥がれてるーーー。」

ローズは腰が砕けそうだった。
もう、こいつにはこいつの世界があるようだから放っとこう。
あたしゃあたしで、自分の用事を済ませる事に専念しよう。
「はいはい、じゃ、あたしゃ行ってくるねー。」

しばらく歩いて振り返ると、アッシュが壁紙をゴリゴリと剥いでいた。
ローズは、アッシュに初めて会った時の感覚を思い出していた。

こいつ、ヘン。


続く。


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ジャンル・やかた 24

アッシュは階段側の廊下の壁に張り付いていた。
耳をくっつけたり、コンコンと叩いたりして、左右にウロつく。
 
ここに部屋が、最低2個は並んでいるはず。
私の部屋は、ここの並びがバストイレだったから気付かなかったけど
このフロアの南の壁の奥には、かなりのデッドスペースがある。

そんで、この建物、こっから奥は増築されたんだ。
アッシュがかなりムチャをして、剥いだ壁紙とその下の板
その更に下の壁は、途中で材質が変わっていた。

歴史のある館の増築や改築は普通の事だよな・・・。
・・・歴史・・・、どっかで聞いたような・・・?

「あっ!」
しばらく考え込んでいたアッシュが、叫んだ。
飯! 飯を食ってなかったんだよーーー!

それを思い出すと、そそくさと部屋の中に入っていった。
どんなに大事な事でも、ひとつ思い出すと他は全部忘れる
まるで昆虫並みの知能の持ち主である。


ふと目覚めると、あたりは真っ暗だった。
どうやら満腹になって、うたた寝していたようだ。
ソファーで寝たせいか、体のあちこちが痛い。

ヨタヨタと歩いて電気を点けると、時計の針は22時を回っていた。
アッシュはものすごい孤独感に襲われた。
こんな時は、自分以外に生き物がいない世界に迷い込んだ気分になるのだ。
アッシュは何の動機もないのに、サメザメと泣いた。

だめだ、こんな生活だとウツウツしてくる・・・。
どうせあと半年 (最長) の命だから
規則正しい生活とかアホらしいかも知れんけど
それでも沈み込んで暮らしたくない。
きちんとせんと、きちんと!
アッシュは涙を拭って、ローズの部屋に向かおうと廊下に出た。


ドアを開けたら、目の前にローズが立っていて
お互いに 「うわっ」 と、叫んだ。
「ごめんごめん、電気が点いてたから起きたと思ってさ。
 遅くなっちゃったけど、鋏、修理できたから
 ん? あんた、どうしたんだい?」

アッシュが再び大泣きし始めた理由は
せっかく鎮めた気持ちを、ローズとの鉢合わせの驚愕と
ローズが自分の部屋の明かりをチェックしていてくれた事で
揺さぶられたせいである。

「すい・・・ません、驚いたんで・・・」
「驚いたぐらいで泣かれたらたまらないよ!」
「起き・・たら・・・真っ暗で・・・何か・・・寂しくて・・・」

まったく、こいつはガキかい。
こんなヤツに相続など、とんでもないね!
ローズは、恐らく出会ってから今までで一番呆れていたが
泣きじゃくるアッシュを、可哀想と想ってしまう気持ちもあって
そんな自分にも激しく腹が立った。

でもまあ、死への恐怖感で情緒不安定になってもしょうがないね
ローズは、そう擁護して解釈したが
実はアッシュは普段から、時々こういう
起きたら夜! という事をやらかしては
自己嫌悪に陥って、メソメソしていて
これがアッシュのナチュラルな姿であった。


「はいはい、わかったから、中に入って座って。
 さっきの朝飯は食ったかい? お腹は減ってないかい?」
甲斐甲斐しく世話を焼くローズを、アッシュは弱々しく見つめ
ローズはその目を見て、まるで捨てられた犬のようだ、と感じていた。

これが二人の関係を決定した出来事で
その形は、その後変わる事はなかった。


続く。


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ジャンル・やかた 25

コォ・・・ン
 
「あれ? 今何かヘンな音が聴こえませんでしたー?」
「いや? どんな音だい?」
「遠くでわら人形を打ってるようなー・・・。」
「わら人形? 何だい、それ?」
「日本古来より伝統的に行われている、呪いの儀式ですよー。」
「・・・・・日本って、本当にどういう国なんだい?」
「神も仏も家電も混在している、何でもアリの国ですよー。」
「あんたの言ってる事は、どうも信じられないねえ。」
「兄や私は、典型的な日本人ですよー。」
「ああ・・・、なるほどね・・・。」

ローズが入れてくれたお茶を、ひと口すすって続ける。
「そういや、ここ、幽霊とか出ないんですかー?」
「幽霊? 聞かないねえ。」
「あなたは神を信じますかー?」
「宗教はやってないんでね。
 日本人は何だっけ? ブッディストって言うんかい?」
「日本には八百万の神様がいて、幽霊もウジャウジャいるんですよー。
 八百万は神道で、幽霊は仏教の分野になるんかなー。」
「・・・何か色々と大変そうだね・・・。」
「そうなんですよー。 もうゲシュタルト崩壊ですよー。」
「何だい? ゲシュタルトって?」
「そんな難しい事を私に訊かないでくださいよー。」


ローズは、アッシュとの会話に慣れてきていた。
「さて、寝ようかね。」
さっさと流して、腰を上げる。
「あんた、ちゃんと寝るんだよ。」
「・・・はい・・・。」
心細そうに表情を曇らせたアッシュの頭に、ゲンコツを一発入れる。
「ほら! シャンとしな!」

アッシュの返事を待たずに、ローズは部屋を出て行った。
どうせ、また思い出してはメソメソするんだろ、こいつは。


ローズの読み通り、アッシュは中々眠れずにいた。
時計を見ると、夜中の1時である。
また腹が減った。
考えてみれば、今日は1食しか食っていない。
こんな時間に食べると、体調が悪くなるのだが
食わず癖が付くのは、もっとマズい。
アッシュは食堂へ向かった。

食堂は無人かと思っていたが、賑わっていた。
しかも全員、酔っ払いである。
ああ・・・そうか、そうだよな
飲酒はどこの世界でも習慣だもんな。

その、全世界共通の言動の酔っ払いに囲まれて
アッシュは居心地悪く、飯を食った。
「嬢ちゃんは、まだ酒を飲めない歳かねー?」
「はい、未成年なんですー。」

一体いくつサバを読めば気が済むのか
シラッと答えるアッシュに、オヤジが叫んだ。
「俺は10歳から飲んでるぜー、わはははは。」
「俺なんか産湯がウイスキーだったぜ、ぎゃはははは。」
「あたしなんか母親がアル中で、腹ん中で既に酒浸りさー。」

ドワッと笑いの渦が巻き起こる中
アッシュだけは無表情で、皿を突付いていたが
いたたまれず席を立ち、そそくさと食堂から退散した。


「愛想がないのね。」
え? 私? と振り返ると、女性が立っていた。
えーと誰だっけ? と、珍しく思わなかったのは
その強烈な香水の匂いである。
アッシュが初日に門のとこで会った女性であった。

「はあ。 酔っ払いに愛想良くしても良い事ないですからー。」
その答に大笑いするその女性も、かなり酔っている。
構わず行こうとするアッシュの顔を覗き込む女性。

ジッと凝視され、目が泳ぐアッシュ。
「あなた、お兄さんと全然似ていないのね。」
「はあ、よく言われますが、ほんとにほんとの実の兄妹でー。」
「でも、目の色は同じね。」
「すいませんが、日本人は全員この色なんですよー。」
「髪も一緒ね。」
「ほんとすいませんけど、日本人、皆こうなんですー。」

女性はふふっと笑い、フラフラと東の廊下へと歩いて行った。
明るい茶色の巻き髪のその小柄な女性は
他の住人たちと一緒にここにいるにしては、異質な雰囲気である。

あの人は何をしている人なんだろう?
女性のピンヒールを見て、アッシュは違和感を感じた。


続く。


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ジャンル・やかた 26

「また昼まで寝てる!」
片足を壁に立てかけ、大股開きでヘソを出して寝ているアッシュに
ローズが仁王立ちで怒鳴りつけた。
 
他人の怒号で目覚める朝・・・
ちょっと幸せを感じるアッシュ。

蹴り落とされた布団をたたみながら、ブツブツ怒るローズ。
「あんた一体どういう寝相をしてるんだい。
 そんなこっちゃ、風邪を引くよ。」
モソモソと起きだすアッシュに、タオルを投げつけ
「一時間で用意しな! 今日は動くよ!」
そう行って、ローズは部屋を出て行った。

ああ・・・、毎朝ローズさんにモーニング説教をしてもらいてえ
こういう状況でホノボノとするなんて、私も大概、愛に飢えてるんだなあ
歯を磨きながら他人事のように思う、反省のカケラもないアッシュ。


「用意できましたー。」
ローズの部屋をノックすると、大鋏とともにローズが出てきて訊く。
「さあ、今日はどこへ行くんだい?」
「えっ、その前にお茶でも入れてくださいよー。」
「ああー?
 あたしゃあんたを待ってる間に6杯飲んで、もう水腹なんだよ!」

「えええーーー、私、まだ何も飲み食いしてないんですよー。
 ローズさんのお茶とクッキーが食べたいですー。」
「まったく、図々しいったらないね、この子は!」
ブリブリ怒るローズを、アッシュがヘラヘラ笑いながら部屋に押し込む。


ローズがイラ立って、床をかかとでカツカツ踏みつつ
鋏をジャキンジャキン鳴らしている前で
アッシュはスコーンを頬張っている。

「あのー、落ち着かないんで、やめてもらえませんかねー。」
アッシュが懇願すると、ローズが鼻息を荒くした。
「あたしゃ、毎日毎日あんたを待って待って待って
 ほんとイライラしているんだよっ!」

その言葉を聞いて、アッシュは思わず立ち上がり
鋏を持つローズの手を両手で握り締めた。
「ローズさん・・・、嬉しいですー、ありがとうございますー。」

「なっ何だい、わけのわからない事ばかり言うんじゃないよ!」
ローズが慌てて、アッシュの手を振り払う。
「待ってくれるなんて、愛ですよー、ほんと嬉しいですよー。」
「愛じゃない! 義務なんだよ!!」
「愛ってそういうもんですよねー。」

ああもう、こいつはっ!
益々イラ立つが、その気持ちがわからないでもないのが、また腹立たしい。


「ん? そういえば、盗聴ゴキブリはどうなった?」
「ああ、あれ、勘違いですねー。
 よく考えたら、そんな面倒な事をしなくても
 カメラにマイクを付けてれば良いんですよ。
 あれ、本物のゴキブリですよー。」

「じゃ、あんたは本物のゴキブリを追ってたんだ?」
うっ・・・と、アッシュがスコーンを喉に詰まらせた。

そう言われればそうだ、ヒイイイイイイイイイイイイイ
慌ててアッシュが手を洗いに行くのを横目で見ながら
バカめ、とローズがせせら笑った。


洗った手の水をブルブル飛ばすアッシュに
「あたしの部屋を汚さないでくれ!」
と、ローズがタオル第二弾を投げつける。

廊下はあんなに汚いのに・・・と思った瞬間
「あっっっ!!!」
「なっ何だい、いきなり!」
「ローズさん、この館、増築してますよねー?」
「ああ、そうだね。」

アッシュは少しちゅうちょした後、上着の下から写真を取り出した。
「これ、どこにあるかわかります?」

「・・・あんた、今その写真をどっから出した?」
「身に付けてるのが一番安全なんですー!」
「うわ、生温かい・・・」

ローズが汚物をつまむように、写真を持ち上げた。
「ん? この写真どこにあった?」
「兄の置き土産ですー。」
「へえ、あんだけチェックしてたのに、グレーもやるねえ。」

「じゃ、この写真は凄いヒントなんですねー?」
「・・・さあ・・・何のヒントになるんかね、これが。」
「言えないんですか?」
「うーん、私には判断が付かないから言わないでおくよ。
 お互いに失格は避けたいだろ。」

再び腹に入れようとした写真を見て、ローズが止める。
「ちょっと待った、その裏、何て書いてあるんだい?」
ローズの目をジーーーッと見て、アッシュがそっけなく答えた。
「秘密ですー。」
「何でだい?」
「私にも意味がわからない言葉なんですよー。
 どうせ大した事じゃないとは思いますけどー。
 というか、知ってて言えないのも辛いでしょうから
 これからはもう、あまり質問はしないようにしますよー。」

「へえ、ありがたいねえ、思いやってくれるわけだ?」
ローズの顔が少しほころんだ。
「ローズさんには、色々と負担を掛けちゃってますしねー。」
「じゃ、さっさと食べな。」
「イエッサー!」
アッシュは座って、再びフォークを手にした。


続く。


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ジャンル・やかた 27

あれ? また何か忘れているような・・・???
アッシュの忘れている事など、ひとつやふたつじゃない。
何を忘れているのか忘れるようになると
人生もそろそろ終了、って事だ。
 
「忘れたくても思い出せないんで、忘れられない事ってありますよねー。」
「えっ? 忘れたくて? 思い出せないで?」
「気にしないでくださいー。 ほんのたわ言ですからー。」
「はいはい、じゃ、今日はどこ行く?」

アッシュがイヤそうな顔をして、紙にアミダくじを書き始めた。
「ここまでお世話をしてもらって
 『今日は行きません』 じゃ済まないですよねー。
 ほんと、行き詰ってるんですけど
 無謀な探索はムダに危険で、ほんとやりたくないんですけど
 ローズさんの気持ちに応えるには、命を削る以外にないですよねー。
 ♪あっみだっくじ~あっみだっくじ~♪ っと。
 はい、今日は南館の1階ーーー。」

「・・・いや、無理に行かなくても良いんだよ?」
「すいませんー、悪ふざけが過ぎましたー。
 真面目に行きますー。
 どうせ八方ふさがりだし、こうしててもしょうがないですし
 とにかく動くのも手ですよねー。」

では、今日もよろしくお願いします、と
アッシュはローズに深々と頭を下げた。
「じゃあ、行こうかね。」
ふたりは部屋を後にした。


玄関ホールに着いた時に、アッシュは聞き覚えのある音を耳にした。
コォォォン
「あっ、丑の刻参りー。」

その瞬間、背後でチーンという音が鳴った。
「ぎょああああああああああああああっっっーーー!」
飛びついてきたアッシュに、ローズが怒鳴る。
「何やってんだい!」

ドアがガーッと開き、中から女性が出てきて
ローズとアッシュを一瞥して、カツカツと玄関ドアを開けて出て行った。
きつい香水の残り香が帯になっている。
「何だ、リリーかい。」
「え? あれー? ええー?」
アッシュは、リリーが出てきた方と出て行った方を交互に見る。

そして上の階を見て、やっと気付いた。
自分の部屋のバストイレの横の空間は、エレベーターだったのだ。
「ああーーーーーーーーー、なるほどーーーーーーーー!」
このエレベーターのドアは、2階 ~ 4階にはない。
多分1階から5階か6階に直通なのだろう。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、ってやつかあー。」


って、ちょお待って!
「撤退ー! 一時撤退ーーー!」
アッシュが急に階段を駆け上り始めたので、ローズも慌てて後を追った。

3階の踊り場まで一気に来て、ゼイゼイ言いながらローズに訊く。
「今の人、リリーさんって言うんですかー?
 何をしている人なんですかー?」
「それは・・・」

「はい、言えないですよねー、あの人、主の秘書でしょー?
 いつもスーツを着て、キレイにメイクして
 どっかに出掛けてますもんねー。
 今、上から出てきましたよねー?
 と言う事は、主の部屋は上にあるんですよねー?
 って、ああっっっーーー???」
再びアッシュが玄関ホールに駆け下りる。

ローズが追いついた時には、アッシュは玄関ドアの前に立ち
ガバッと服をめくった。
「ちょ、ちょっと、あんた、何を?」
ウロたえるローズを無視して、写真を取り出して凝視していたアッシュが
ローズの方をグリンと向いて、興奮して叫んだ。
「これ、ここですよねー!」


ええーーー? て事はー、この2階建ての建物がこの館の元の姿で
ここのこっから先は増築だとしたら
昔からある部分って、南北の1~2階の途中の広さまでで
歴史と伝統歴史と伝統歴史と伝統 ああっ、わからん!!!!!

ゴンゴンと玄関ドアに頭を打ち付けるアッシュを、ローズが心配して止める。
「おやめ、それ以上バカになったらどうすんだい!」

アッシュがローズの顔を見上げた時、その向こうに人の顔があった。
ヒッ と、恐怖におののくアッシュ以上に
その人の顔は、恐怖に強張っていた。
その人は、ガラス窓の向こうに座っていた。

「だ、誰ー?」
「ん? ・・・ああ、何だ、管理のじいさんだよ。
 館に入ってくる人の受付けさね。」
「・・・あんたたち、大丈夫かね・・・?」
ちょっとガラス戸を開けて、おそるおそるじいさんが声を掛ける。

「この状況下で 『大丈夫』 とは、八つ当たりされたいんですかねー!」
鬼のような顔で、アッシュが野太い低音を発すると
じいさんは、ビクッとしてアワアワと戸を閉めた。


にしても、見えていない事が多すぎる!!!
アッシュは自分の観察力のなさに腹が立ち
腕組みをして、じいさんを睨み続ける。

ただ単にアッシュの視線の先にじいさんがいた、と言うだけなのだが
じいさんは生きた心地がしなくなり、奥の部屋に避難して行った。

「こらこら、アッシュ、いい加減にしな。」
ローズが優しい声でなだめようとする。
「どうするんだね? 戻るかね?」

「んーーーーー・・・・・」
アッシュは考え込んだ。
どうも主の部屋は最上階のような気がするんだけど
この写真がどうにも引っ掛かる。

あえて昔の館の写真を、兄が隠しておいたのには
絶対に深い理由があるはず。
ここは、意味がわからなくても
1階と2階に注目すべきなんじゃないだろうか?

「いえ、あみだの神様に従って予定通り行きましょうー。」
アッシュが決断した。


続く。


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ジャンル・やかた 28

南館の1階の廊下に入っていく。
「何か、静かですねえー。」
アッシュがビクつきながら、ローズにコソッと言う。
 
こういう空気の時はヤバいんだよね・・・
ローズもビクついていたが、それを口には出さずにいた。
アッシュにパニくられるのが一番厄介だからである。

「なあに、だいじょう」
「ぶじゃないですーーーーーーーっっっ!」
アッシュが叫んだ。
男の影が浮かび、その手には斧が握られている。
「定番出たーーーーーーーーーーーーーっ! 顔文字略ーーー!」

男は斧を振り上げ、アッシュへと向かってきた。
「逃げな!!!」 「うぎゃあああああああああああ」
ローズとアッシュが同時に叫び、斧が振り下ろされる。


バキッ

斧が突き刺さる音がし、アッシュの脳天に衝撃が走った。
アッシュは進行方向に向き直るヒマもなく、後ずさって
通路のゴミに足を取られて倒れ、廊下の壁に頭を打ったのである。
斧はそのすぐ上に突き刺さっていた。


頭に激痛が走るが、ローズが男と格闘しているので加勢をしようと
斧を抜こうとしたアッシュは、猛然と斧を左右に動かし始めた。

斧が抜けた時、野生の勘で何かをひらめいたように
再びそれを壁に振り下ろした。
何度も何度も。

壁の一部に割れ目を入れたら、次は周辺を足で蹴る。
バキッ メキメキッ ガゴッ ドガッ
一心不乱に鬼の形相で、それを続けるアッシュに
取っ組み合いをしていたローズも男も、呆然と見入った。


体が通るぐらいの裂け目から、アッシュが中を覗くと
ベッドとクローゼットとサイドテーブルだけの狭い部屋の隅っこで
じいさんが怯えながら、小さくなっていた。

中に人がいるとは思わなかったアッシュは、流れで謝った。
「あっ、すみませんー。」

じいさんは、おうっ、あわあわ、と我に返ると
壁にある小さな扉を開け、スイッチを押した。

ドッパーーーン ポン パンパン

花火の音に続いてファンファーレが鳴り、機械音声のアナウンスが響いた。
「ソウゾクタッセイ ソウゾクタッセイ」


はあ? と、裂け目から上半身を出して目を丸くしているアッシュに
じいさんが首を振って訴えた。
「嬢ちゃん、わし、今ものすごく恐かったよ・・・。」
「え? ああー、リアル・シャイニングでしたもんねー。」

アッシュは、ホラーネタには素早く反応をするが
頭の回転はさっぱりだった。
「で、あんた誰ですかー?」

「あれ? わかったんじゃなかったんかい!
 じゃあ無効じゃな。」
さっきの取り消し~ と、館内にじいさんの声がアナウンスされる。

「ちちちちち違う、じゃなくてー、主の部屋をめっけたのは自覚してますー。
 そういう事じゃなくて、あなたは誰なんですか、って意味ーーー!」
慌ててアッシュが弁解すると、じいさんは再びマイクを握った。
「今のは間違い~ やっぱり相続達成じゃった~。」


「ほれ、わしじゃよ。
 さっきあんた玄関ドアのとこから、わしを睨んどったろう。
 それに食堂で絡まれた事も何度かあるぞ。
 覚えとらんのか?」

そんな影の薄いジジイの存在など、気にもとめていなかったアッシュは
はあー・・・、ものすごい疲れたっぽい溜め息をついた。
実はそこが主の部屋だとは知らずに踏み込んだのだ。

壊せるみたいだったから、我を忘れて壊しにかかった
という、ケダモノのような習性を発揮しただけで
そこがまさかゴール地点だとは、微塵も予想だにしていなかった。


「何だろうー、この途方もない壮大なガッカリ感はー・・・。」
「失礼なやっちゃな!」
じいさんがブリブリと怒った。


続く。


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ジャンル・やかた 29

「だって普通、モニターに囲まれた広い部屋の真ん中で
 クジャクの羽ー?みたいなデカさのオットマンチェアーに座ってて
 グルリと振り向いて、『ようこそ、我が館へ。 ふはははは』 
 とかやる、って思うじゃないですかーーー。」
 
「そんな夢を見ていた頃が、わしにも確かにありました・・・。」
じいさんが遠い目をして語り始めた。

「最初は普通に増築改装をしていけてたんじゃよ。
 それがここ十数年のIT化の波でな、とても苦しくなってな
 ちょっと改築するより、モニター1個の方が高いんじゃ!
 予算が圧迫されて、わしの居場所もどんどん削られて・・・。」

「IT化っすかー。
 何か単語が大間違いな気がしますけど
 私もいつも目クソ鼻クソな事を言ってますから、追求しませんよー。
 言おうとしている事は、なんとなくわかりますしねー。
 とにかくそれで、この小汚い四畳半の隅っこで震えてたんですねー。」

「いや、それは嬢ちゃんが壁を叩き壊すから・・・。
 まさかこんな恐い入って来られ方をするとは思わんじゃったよ・・・。」
「うっすい壁も、IT化の波のせいですねー?」
「そうなんじゃ。」


アッシュはこめかみの血管ビキビキで、ワナワナと震えだした。
「・・・何か、もんのすごーーーく腹が立ってきたんだけどーーー?
 わけもわからんと、何度も痛い目に遭って、何度も死に掛けて
 あげくが人まで殺してしまって、相続するものの正体が
 不良債権のこのクソ狭いボロ部屋かいーーー!!!!!!!!」

じいさんが慌てて言い訳をする。
「い、いや、ちゃんと予算は出るんじゃよ。
 でも時代に合わせようとしたら、どうしても予算オーバーに・・・。」

「アホか! 予算なんてな、上乗せ申告しておいて
 差額をチマチマ隠し溜めておくものなんだよー! (注: 犯罪です)
 あればあるだけ使うから、いざという時にないんだろうがー。
 やりっ放ししてんじゃねえよー、この無計画ジジイー!」

「そこまで言わんでも・・・。」
「この惨状の尻拭いは、次世代の私がせにゃならんのだぞー!
 死ねー! 死んで詫びろー! クソジジイー!」

「あっ、あんたそんな口を利いて良いと思っとるんかね!
 この館の主は、3年持ったら認められるんじゃが
 わしは30年以上やってきたから、長老中の大長老になってるんじゃぞ!
 言わば、あんたの上司になるんじゃぞ!」

「それはそれは、とんだご無礼をお詫びいたしますー。
 では、丁重にお願い申し上げますー。
 お早めにお死にになっていただけませんでしょうかー?」
慇懃無礼にニッコリ微笑んだアッシュだが
すぐに般若のような表情に戻った。

「つーか、金の算段もロクに出来んヤツに、上司ヅラなどさせんわー!
 とっとと、ゴー! ツー! ヘル!!!」

アッシュのとてつもない剣幕に、ジジイはしょぼくれた。
「くすん・・・、わし、長年頑張ってきたのに・・・。」


アッシュの右手にあったドアが開いて、若い男性が顔を覗かせた。
「あの、主様、住人たちが周囲に集まってきていますんで
 お話は会議室でなさった方がよろしいかと思われますが・・・。」

「おっ、ここに理系男子がいたとわー!!!」
上半身だけ出していたアッシュが、バキバキと壁を割って
部屋の中に無理矢理入り込む姿を目の当たりにしたジジイと理系男子は
果てしなく引き潮に乗った。

ドアに首を突っ込んで、アッシュは歓喜の雄叫びを上げた。
「おおおー! 主の部屋の横にモニタールーム、推理大当たりじゃんー!」

モニタールームは予想通り、広々としていて
無数のモニターが連なり、それらの前には数人の理系男子が座っていた。
「ここだけ桃源郷だなあー・・・。」


モニターと理系男子を、うっとりニタニタしながら眺めるアッシュに
ジジイがおそるおそる声を掛ける。
「あの・・・、6階の会議室に行かんかの?」

ジジイには鬼のような表情になるアッシュ。
「ああーーーっ? もちろん、茶ぁと軽い食事等ぐらい出ますよねー?」
「・・・急ぎ用意させるんで・・・。」

「そんなら、行きましょかー。」
「うむ・・・。」

更に壁をドッカンドッカン蹴り割って廊下に出たアッシュの後ろを
ショボショボとついて行くジジイの心は、傷付き張り裂けそうだった。


続く。


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ジャンル・やかた 30

玄関ホールに出たアッシュを、館の住人たちが出迎えた。
ご苦労さん、の声はあったが、みんな動揺しているようで
控えめにザワついている。
 
「交代は初めてのヤツが多いからのお。」
ジジイが全体を見回して、その不安と期待を読み取る。
そして後ろを振り向き、名残惜しそうにつぶやいた。
「ここともお別れじゃな・・・。」

アッシュがつられて見ると、ガラス戸の上にパネルが貼ってあり
『管理人室』 と書かれている。
それに気付いた途端、ヘナヘナと両手両膝を床に付いた。


このジジイは、堂々と “管理者” を名乗っていたのだ!
『ああ、何だ、管理のじいさんだよ。』
さっきのローズの言葉も脳内で再生されて、追い討ちを掛けた。

「ふぉっふぉっふぉ、皆気付かんもんなんじゃよ。
 盲点じゃろ? 上にいた頃は何度も死に掛けたが
 IT化でここに移ってからは、誰にも見つけられんかったわい。」
「死に掛けた?」
「昔は、主を倒したヤツが主になる仕組みだったんじゃ。
 わしも若い頃は豪腕とうたわれた荒くれで・・・・・。」

ジジイの武勇伝は長くなるのを知っているので
アッシュは聞く耳すら持たずに、さっさと立ち上がり
エレベーターへと向かった。

ローズの姿を探したが、人垣で見つからなかった。
その時ローズは、人々に囲まれて祝福を受けていたのであった。


自分だけ乗り込んだら、さっさと閉まるボタンを押すアッシュに
「ちょ、待たんかい! うおっ!!!」
と、ジジイがドアにガガッと挟まれながら、もぐりこんでくる。

「あんた、自分勝手じゃのお。」
エレベーターの中で、ジジイがアッシュを非難する。
「おめえほどじゃねえがなー。」
アッシュは無表情で返した。
「・・・とうとう “おめえ” 呼ばわりかい・・・。」

「あああー? 当然じゃねえー?
 何も知らない善良な一般市民を
 了承もなしで命の危険のあるゲームに巻き込んでー。
 私の一生、ムチャクチャじゃねえかよー!」
怒り大爆発のアッシュに、ジジイがヒインと後ずさりする。

「でも、でもな、今回は特例っちゅうこって
 あんたが門から入って来なくても、生きて帰そうってなってたんじゃよ。
 だから事前に何も知らせていなかったんじゃ。
 この館の事は、門外不出じゃからの。」
「門?」
「うん、そうじゃ。
 あの鍵の掛かった正門、あそこが運命の分かれ道なんじゃ。」


6Fでエレベーターを降りると、そこは近代的な作りのフロアだった。
おおっ、とアッシュが感心した声を上げると、ジジイは東の窓に近寄った。
床から天井まで、すべてガラス窓である。

「こっからじゃよく見えんが、あの門にはX線装置が仕掛けられていて
 相続者の身体検査をしとるんじゃ。
 じゃが、毎日X線を浴びるとマズいじゃろ?
 だから行き来する者は、横の木戸を使うんじゃよ。」

アッシュが思い出して叫んだ。
「あっ!!! それーーー!
 殺し合うっていうのに、何で誰も銃を持っていないのか
 すげえ不思議だったんですよー。
 銃は禁止なんですねー?」

「そうじゃ。
 相続者はあの門を開けて入って来なければならん。
 その時に銃器類を持っとったら、うちのスワットに射殺。
 横の木戸から入って来ても射殺されるんじゃ。」

「・・・何? その無差別殺人・・・。」
「これは普通に相続に参加する時には、ちゃんと説明を受ける事なんじゃよ。
 門から入ってくださいね、銃器類は禁止ですよ、とな。
 それすら守らんヤツは、即時死刑で良かろう?」

ニタリと微笑むジジイに、アッシュはつぶやいた。
「あんたもロクな死に方をせんだろうなー・・・。」


「ところが、あんたは門から入ってきた!」
ジジイが気にせずに続ける。
「わしゃそん時に管理人室から見てたんじゃが
 門に錠をガンガン叩きつけるあんたの姿を見て
 怪物が来た! と、ものすごく恐かったよーーー。」

「じゃ、何ですかー?
 私が渡された鍵を素直に使って門を開けたのが悪いとー?」
「うん、そうじゃ。
 あんたはあの時、知らずとはいえ、自分で相続の道を選んだんじゃよ。」
「ああああああああああああああ、誠実な心がアダにーーーーーーっ!」

木戸の存在に気付かなかったくせに、すべてを自分以外のせいにしたいらしく
床に倒れて転げ回るアッシュに、ジジイが優しく声を掛ける。
「まあ、いいじゃないか。
 あんたはこうやって相続を果たしたんじゃし
 グレーも念願が叶って安心して眠れるじゃろうよ。」

その言葉に、はたと動きを止め、アッシュがつぶやく。
「私、実は・・・・・
 主の正体は兄だった、という展開かと思ってたんですよー。」

「だから、あんたの兄ちゃんは死んだと言うとろうに。」
「うっせー! 人の身内を遠慮なく死んだ死んだ言うなー!
 おめえが死ねーっ!」

ヒイ~ン、と悲鳴を上げながら、ジジイはドアの方に逃げて行った。


続く。


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