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天使か悪魔か

リアルババアあしゅのいらん事言いブログです。 週一更新。 昔の記事は http://maho.lomo.jp/nashural/ に。

殿のご自慢 91

「ごめんください。」

「こ、これは青葉姫さま!
 お呼びいただければ
 こちらから参りますのに。」
呉服屋の主人は大層、驚いた。

「いえ、今日は通りかかったので・・・。」
「どうぞ、こちらでお茶を。」


「元気そうでした。
 あなたには本当に感謝しております。」

「・・・・・
 そんな、あたしは何も・・・。」
それ以上、青葉は何も訊かなかった。

「もし、“あの人たち” に
 何かあった場合は、連絡を。
 急ぎの場合は
 これで用立ててください。」
重そうな小さい包みを主人に預ける。


「いつも面倒な事を頼んで申し訳ありませぬ。」
呉服屋の主人は、恐縮しつつ頭を下げた。
「そんな、青葉姫さまのお役に立てるほど
 光栄な事はございません。
 今後とも、何でもお言いつけください。」

青葉はスッと立ち上がった。
「ありがとう、お言葉に甘えます。」


青葉は帰りすがら
振り向く事をしなかった。

夢にまで見た潮に会えて嬉しい反面
その立場が、想像以上に
遠くに感じたからである。

世の事を考えねばならぬ身としては
潮の存在が原動力になるけれど
そこに未練を残したくなかった。
自分がみじめに思えるからであった。


あの子が少しでも来たがれば
連れて帰りたかった。
でもあの子には、今のままの方が
良いようですね。
寂しさはあったでしょうけど
幸せに育てられたと感じているのは
わたくしの罪悪感でしょうか・・・。

だけど、あえてあのお方に
お礼は言いませぬ。
あの子を与えて奪ったのですから。

憎しみの視線なら、いくらでも浴びたけど
まるで物を見るかのような
あの最後の目・・・
あれでわたくしは別れを受け入れられた。

あの雪の早朝、寒さを感じさせないほどの
冷たい眼差しは
多分、一生忘れられないようですわ・・・。


青葉と潮が会ったのは
これが最後であった。
ふたりの道は、完全に
分け離されてしまっていた。

そしてそれは
“あのお方” も同様であった。


 続く 


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