天使か悪魔か

リアルババアあしゅのいらん事言いブログです。 昔の記事は http://maho.lomo.jp/nashural/ に。

白球は天高く

私が生まれ育った山奥にも
近所の町に高校が一応あった。
そこにはとても弱いが、一応野球部もあった。

私が高校生だった大昔・・・・・
いや、まるで昨日のような、ついこの前の夏。
県予選大会があって
いつもは一回戦敗退が伝統の野球部が
何の間違いか、ついうっかり勝ってしまった。


そりゃあもう、町民は大喜び。
悲願の一回戦突破が成されたのだから。

「次は全力でいけばいいから」
負ける事前提で激励する町民たち。
私から見れば、失礼なこと極まりないのだが
町民たちには悪気まったくなし。
だって勝つはずがないのだから。

ところが町民たちの激励が、妙な方向に効いたのか
2回戦も勝ってしまった。
町民たち、狂喜乱舞。
まるで天女が舞い降りて
諭吉札を撒き散らしてくれたかのように、大騒ぎ。
「次は全力 (以下同文)」 と、激励続行。


しかし、喜んだのはここまで。
3回戦を突破した時点で、雲行きが変わってきた。

町民たちは不安にさいなまれるようになる。
「甲子園に1回行くのに
 最低1000万円 (当時レート) 掛かるらしい」
「それでもし1回戦を勝ったら、もっと金がいる」
「誰が出すんだ? そんな金、うちにはないぞ」
「金がないのを理由に辞退?」
「・・・・・・・」


私は県外の女子校に通っていたので
地元の高校は母校ではないし
うちの両親も地元出身ではないので
その高校とは何の縁も関係もない。
地元とは言え、うちの村からは
離れた地区にある学校なのだ。

何せ田舎だもんで、人口が少なく
生徒たちも、かなり離れた
四方八方な場所から集まっているのだ。
例えて言えば、広大な砂漠のド真ん中の
オアシスのようなもんだ。


なのに、うちにも来た。
「万が一、甲子園に行くハメになったら
 何とぞ募金を・・・」

とうちゃんは悩んだ。
「一体、いくら寄付すればいいんだ?」
こういう事態は、町民にとっても前代未聞である。

かあちゃんを、村の有識者たちのとこに送り込み
作戦会議。
「どうしましょう?」 
「おたく、いくら包みます?」
「うちも息子を県外の学校にやってるし・・・」
「・・・・・・・」


町議会の議題にもなる。
「とても町民の寄付だけじゃまかなえないでしょう」
「町が出さないわけにはいかないだろうし」
「しかし、どの予算から捻出する?」
「そんな余裕はないだろう」
「・・・・・・・」


町民たちは、対戦表と首っ引きで願った。
「○年前の県大会優勝校が勝てば、次にうちと当たる!
 頑張ってくれー」
敵に塩を送るどころか、明らかに寝返っている。


結局、地元高校は、確か準決勝で負けたと思うが
(例の○年前の県大会優勝校に)
負けた瞬間、町民たちは、ホーーーッと
心の底から安堵した。
町議会議員たちも会議室でTVを見て
胸を撫で下ろしていたそうな。


翌日、野球部員たちが帰ってきた時には
町民たちがこぞって駅まで出迎えた。
「残念だったな、応援してたのに」 
「次は優勝を目指して頑張れ」

地元が勝つのは嬉しいが、親たちが金がなくて
頑張った子供たちを、晴れ舞台に送り出せない
などという事態には陥りたくなかったのだろう。
親の威厳まるでなしになるからな。
にしても、そういう事をおくびにも出さず
負けて残念だと言い張る。


その夏は、ずっとこの話題で占められていた。
私が夏休みで帰省した時も、この話題が飛び交っていた。

村人たちは、その後何年も
TVで甲子園を見る度にこの経験を語り告ぐ。
当時の野球部員たちの耳にも入っていただろうに。

野球部は、ほどほどなところで負けるという伝統を
新たに背負わされた。


子供たちが、大人の事情とやらを知った夏であった。



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